6、キョーコ



そんな激しい感情が恋だというのなら、私が尚に抱いていた気持ちは一体なんだったんだろう。


『インプリンティング』

ふいにそんな言葉が頭に浮かんだ。

孵化したばかりの雛が初めに見たものを母親だと思い込む、いわゆる刷り込み。

ずっと尚しかいなかったから、それを恋だと思い込んでいた?

ううん。 勘違いで済ませてしまうには十数年は長すぎる・・・。





「最上さん?」

考え込んでいた私に、敦賀さんが恐る恐る声をかけた。

敦賀蓮にあるまじき、自信のなさそうな、不安げな、苦しそうな、そんな物がないまぜになった表情。

こんな顔をさせているのは、私?



「俺の気持ちはわかってくれた?」

敦賀さんの問いかけに、ぎこちなく、小さく頷く。


「何が不安? 君が笑ってくれるなら、どんな努力でもしよう。 だから、どう思っているのか、言って。」

「怖いんです。 好きな人から好きだって言ってもらったことなんて、私にはないから。」

ポロリとこぼれた言葉に、敦賀さんは笑った。


「今の、告白にきこえたのは、気のせいかな?」

あわてる私の返事を待たずに、敦賀さんはさりげなく話を続けた。


「琴南さんは? マリアちゃんは? だるまやのご夫婦だって社さんだって椹さんだって社長だって、みんな君の事好きだろう?」

「でも、その気持ちがいつまでも続くとは限らないでしょう?」

「そうだね。 だけど、それが不安なのは、誰でも同じだよ? だからこそ、お互いに努力が必要なんじゃないかな。」

「努力、ですか。」

「思いやり、愛情、いろいろな言い方があるけど、君には一番ピンとくる言葉かなと思って。」



優しい人。 時に厳しいけど、それも優しさからだと知っている。

愛しいとさっき敦賀さんが言ってくれた言葉がよくわかる。

敦賀さんへの愛しさに、涙があふれた。


「君への気持ちがいつまでも続くってことを、俺が一生をかけて証明する。 それでどうかな?」

「一生なんて、勘違いしちゃいます。」

「勘違いしてくれていいよ。 ずっと一緒にいるから。 俺に愛する喜びを教えてくれた君に、愛される喜びを教えてあげる。」

もう、何も言い返せない。



私は両手を広げた敦賀さんの胸に吸い込まれた。

「ありがとう。」


お礼を言うのは私の方なのに。

まだ大事な一言も口にしていないのに。


「好きです。」

本当に小さな声だったのに、敦賀さんは全身で喜びを表してくれた。