5、蓮
どう攻めたらいいんだろう。
わからないまま、思うままを口にする。
「俺は役者だから、君に恋をしている自分をたまに俯瞰で見ることがあるんだ。 君の行動に左右される俺は、確かになかなか愚かかもしれない。 今なら恋の狂気も演じることができる。」
演技に例えたせいか、彼女は真剣な顔つきになった。
「君に、他に好きな人ができたとでも言われれば、おかしくなることは間違いないな。 あのバレンタインの日だって、本当は嫉妬に狂って不破と同じかそれ以上の事をしてしまいそうだったんだよ。 君の中を俺でいっぱいにしたいって。 でも君にそんな黒い感情で触れたくはなかったんだ。 ・・・結局歩く純情さんは頬キス程度で俺でいっぱいになってくれたんで、あんなフォローをしなくちゃいけなくなったことは、我ながら愚かだと思うよ。」
思い出したのか、彼女は顔を赤くしてぷうっと頬をふくらませた。
「たとえ、君に遊び人の烙印を押されたとしてもね、君の泣いている姿は見たくなかった。」
「敦賀さんが泣かせたくせに。」
「うん。 だから、余計にね。」
「気が付いているかもしれないけど、俺は敦賀蓮という人物を演じている。 だから社さんであっても、俺自身の感情の動きを見せたことはなかったんだ。 君に逢うまでは。」
「温厚で、紳士で、誰にでも優しくて?」
「君にはどうしてだか初めから、そうでもなかったみたいだけどね。」
彼女がやっと笑ってくれた。
それに勇気をもらって、俺は話続けた。
「君に恋をして、俺が知った感情は決してきれいなものばかりじゃない。 怒りや焦り、敗北感、灼けつくような胸の痛み、苦しくて、自分を制御できなくなりそうで、自分が怖くなったこともある。 でも、同時に味わったことのなかった幸福感や、満ち足りた気持ち、こんなに人を愛しく思ったことはない。 それを愚かでくだらないとは思えないんだ。 苦しみも喜びも俺にとってはかけがえのない、大切な気持ちだ。」