1、蓮 



 「付き合ってほしいんだ。」


食事の心配をしてきてくれた彼女に、こらえきれなくなって、告げた。

ラグに座っていた彼女は、俺の淹れたコーヒーを両手で包むように持ってふうふうと冷ましながら、こちらも見ずにさらりと応えた。

「はい、私で良ければ。」

その時の俺には、あっさりした答えに不審を抱く余裕がなかった。


歓喜のあまりに彼女の傍にひざをつき、抱きしめようとした。 


が。

「いつですか? どこへでもお供しますよ。」

にっこり微笑んで顔をあげた彼女は、目の前に迫っていた俺にびっくりして身体を引いた。




一瞬、彼女の勘違いにのってしまおうかとも思った。

俺の告白はなかったことに。

今までの距離をキープしたままに。

とりあえず一緒に買い物かどこかへ「つきあって」もらって・・・。




でも・・・。




俺はゆっくりと彼女の手からコーヒーカップを取り上げてテーブルに置き、

彼女をしっかりと抱きしめた。

微かな抵抗。

それを押さえ込みながら、耳にダイレクトに言葉を注ぎ込む。


「好きなんだ。 最上さんのこと。 ずっと好きだったんだ。」


その瞬間、彼女の抵抗が止んだ。

俺はほっとして、拘束をゆるめた。


そのとたん、はじかれるように彼女は俺から1メートルくらいの距離をとった。