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少し怒りが落ち着いたらしい敦賀さんは、でも無言のままコーヒーを淹れてくれた。
テーブルの上に、くしゃくしゃになった週刊誌が広げてあった。


「説明してくれる? 不破に復讐を果たしてきた?」
「復讐はもうやめました。 女優という仕事が好きだから。」
「復讐をやめて、仲よくすることにしたってことか。」
吐き捨てるように言われて、私は心を決めた。


「この日、ショーに好きだって言われました。」
週刊誌をたたみながら、小さな声で告げた。

敦賀さんが拳を握りしめる。

「よかったじゃないか。 望みがかなって。」
「ですよね。 でも、特になんとも思わなかったんです。」
「え?」
「自分が恋をして初めて、ショーへの気持ちは恋じゃなかったって気がついたから。」
敦賀さんは、どうしていいのか分からない迷子のような顔になった。

「不破じゃないヤツに恋をしてるの?」
「はい。」

敦賀さんは傷ついたように顔をそむけた。

「ショーにもはっきり言いました。 好きな人がいるって。」
「もういいよ。 それ以上言わなくて。 無理やり連れてきて悪かった。」


――神様、敦賀様、私にもう少しだけ勇気と自信をください。


「その人は、とても優しい人なんです。」
「もういい。」
「聴いてください! お芝居にとても真摯に向き合っていて、尊敬できる人で私の目標なんです。 でも私にはちょっぴり意地悪で、すぐにだまそうとするし、からかうし。 お食事はちゃんととらないし、遊び人で似非紳士で・・・。」
「最上さん・・・。」
やっと私を見てくれた敦賀さんの眼を見つめたまま続ける。

「いつのまにか好きになってしまっていたんです。」
言い終わらないうちに、私は敦賀さんに抱きしめられていた。



「夢じゃない? 俺、起きてる?」
抱きしめられたまま、私は小さくうなずいた。

「ずっと君が好きだった。 週刊誌を見てもう遅いかもと思った。 あんなに苦しかったことはなかった。」
敦賀さんは少し力を緩めて私と眼を合わせた。

「でも、今は幸せだ。」


「夢なのかも?」
敦賀さんの反応が信じられなくて、今度は私が問いかけた。
「夢じゃない。」
神々スマイルの敦賀さんが、そっとキスをしてくれた。


その日は、手をとりあって、ソファーで寄り添って眠った。