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「プリズナーの時、お前に驚いたのは、すっかり姿が変わっていたからだけじゃない。 お前のことなら何でも知ってると思ってた。 それなのに、俺の知らないキョーコの顔をいっぱい見せられて、ショックだった。」
「そうでしょうね。 私も知らなかったし。」
「・・・・ビーグルに首位を奪われた時、落ち込んでいた俺をお前は一瞬で吹き飛ばしてくれた。

あの時ほどお前の存在に感謝したことはない。」
「そんな様子見せなかったくせに。」
「だな。 ・・・決定的だったのは軽井沢だな。」


あの時のことが、よみがえる。
「危険を察知した時、なりふり構っていられないと思った。 

キョーコのことだけを考えてた。」
「ショー・・・。」


「あの朝、敦賀のヤローが邪魔さえしなけりゃ、お前が好きだと言うつもりだった。」

「ショー。 私が芸能界に入ったのは、ショーに復讐するためだった。 

そのせいでずいぶん敦賀さんに嫌われたけど。 

あんたにあやまらせて、私を捨てたことを後悔させてやるつもりだった。」
「悪いな。 謝ることも後悔することもしない。 

俺は今のキョーコが好きだから。」
「うん。 いつの間にか復讐のためじゃなくて、自分自身を作るために女優になりたいって思ってた。 

あの頃の空っぽな私は捨てられても仕方がなかったんだって、今ならわかるから。」



私はショータローを真正面から見つめた。
「それがわかったのはね、私が本当の恋をしたから。」


「それは、俺じゃないんだな。」
見つめたまま頷く。
「俺は別れた後でもお前はずっと自分のものだと思ってた。」
無言の抗議。
長い沈黙に耐えきれなくなったように、ショータローは大きくため息を吐いた。


「あの時、あの男に邪魔されていなければ・・・、あの時に伝えられていたらお前の返事は違っていたのかな?」
「魔界人に捕まった時、確かに救いを求めて頭に浮かんだのはあんただった。 

でも私が憎しみから解き放たれたのは純粋に想う相手ができたから。 

あんたへの想いが恋じゃなくて依存だったってわかったから。 

だからあの時今と同じことを言ってくれたとしても返事は違ったかどうかわからないわ。」
「はっきり言うのな。」


うつむいたきり黙っていたショータローはしばらくして、昔よく私だけに見せてくれた顔でふっきれたように笑った。
「話はこれで終わりだ。 まあ、同じ業界にいる幼馴染として、これからも頼むわ。 じゃあな。」