私の様子が変わったことに、会った直後から不審な顔をしていた尚が、夕食の後、話がしたいとささやいた。
二人で話すためにはホテルの部屋へ招じる他はない。
私は尚を部屋へ誘った。



ソファに座ると、ショータローは緊張した顔で言った。
「少しマジな話をさせてくれ。」
私の顔を見つめて、大きく息を吸ったショータローはゆっくり言葉を発した。
「キョーコ。 俺はお前が好きだ。」
物心ついてからずっと望んでいた言葉。 
なのに、今の私には思い描いていた感動は、ない。



「お前を東京に連れてきたことは打算だった。 別れたことも後悔はしていない。 俺についてきた、俺ばっかりのキョーコは重たいだけのつまらない女だった。 それも訂正する気はない。」
「あんた、喧嘩売ってんの?」
「そうだな。 そういう切り返しができる女になったことがお前を見直した一つかもしれない。 以前のキョーコなら、俺の言うことは何でも聞いてくれた。 楽だったし、便利だったけど、それだけだ。」
「何が言いたいの?」
「もっと自分らしさを出してよかったんだ。 いやなことはいやだと、ほしいものはほしいと言ってくれてよかったんだ。 その方が・・・。」
ショータローの言うことは、もっともだと思った。 今ならわかる。
「でも、あの頃はね。 いやだともほしいとも思わなかったんだよ。」
嫉妬することさえなかった、きれいなきれいな想い。