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ショータローの10枚目の記念CDのプロモーションビデオの出演依頼は、一度目は丁重にお断りした。
敦賀さんへの気持ちを自覚してしまってから、ショータローへの憎しみはゆっくりと溶け始めている。


でも、本人に会ったらどうなるか分からない。
もう、ショータローにふりまわされたくない。


そんな思いで断ったのだったけれど、麻生さんが、尚との関係とは関わりなく、女優としての私を認めてくれて、ぜひにと説得にわざわざ事務所まで足を運んでいただいて、スケジュール的にも問題ないんだからと椹さんに背中を押されて、結局引き受けることになった。




国内の海沿いリゾート。
季節はずれなせいか、穏やかな海岸には撮影班以外は誰もいないおかげで、静かにスムーズに撮影は進む。


私は一人でひたすら波と戯れながら、百面相を披露する。
天使だったり悪魔だったり妖精だったり小悪魔だったり。


ショータローは少し離れた岩場で撮影されている。


夕方になって、ようやく尚と向き合い微笑みを交わす。
二人の距離がゆっくり近付き重なる部分は、
ロングの撮影で、オレンジの夕焼けにシルエットで浮かび上がる予定だ。


シルエットなのでキスはフェイクだが、抱き寄せられた尚の腕の中で、
自分でも不思議なくらい平常心でいられた。