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敦賀さんは怒りMAXのまま私を車に乗せ、マンションに連れて帰った。


私は怖くて声を出すこともできないまま、座らされたソファで小さくなる。
敦賀さんは横に立ったまま冷たい目で私を見下ろしている。



「好きな人がいるんだ? 相手は貴島君?」
「貴島さんじゃないです。」
「相手が誰であれ、二人きりの場で男にああいうことを言うのが、何を意味するかわからないのか! あのまま貴島君に食われても文句は言えないんだぞ。」
「それで大人になれるのなら」
「本気で言ってるのか!?」



初めて聞く敦賀さんの怒鳴り声に、私はさらに身を竦ませた。
反論も、ささやくような声にしかならない。
「だって、私の好きな人は・・・私みたいな子どもは対象外なんです。 だから、そういうことを楽しめる大人の女性にならないと」
「冗談じゃない! そんな奴に君を渡せるか! どれだけ俺が君を大事にしてきたと思ってるんだ!!」
敦賀さんの口から意外な言葉を聞いた気がして、思わず顔を上げた。
敦賀さんの顔は本当に辛そうに苦しそうに歪んでいた。


「敦賀さん?」
小さくつぶやいた途端、私は敦賀さんにきつく抱き締められていた。


「君が恋愛に嫌悪感を抱いてる限り、俺が何を言っても受け入れられないってことがわかっていたから、それまでは誰よりも君の傍に居ようって思っていたのに。 いつの間に好きな人なんて・・・。相手が誰であろうと、俺は君を誰にも渡すつもりはないよ。」
「だって、敦賀さんは私みたいな子どもには何もしないって言ったもの。泣いたら困るからって言ったもの。」


敦賀さんの言葉に呆然としてこぼれた、聴こえないくらいの私の声は反対に敦賀さんを唖然とさせた。


「・・・・・・おれ?」


「だって、歩く純情さんな私には何もしないって。私みたいな子どもじゃなくて、大人な会話を楽しめる大人な女性にはほっぺにキスどころかそれ以上のこともしてるってことですよね。 私みたいな子どもは恋愛対象外だってことで・・・。」
あまりに混乱して、涙があふれてきた。 そんな私を敦賀さんは今度は優しく包み込んでくれる。


「ごめん。ごめんね。 そういうことじゃないんだ。 君が恋愛対象外なわけがない。 君以外の人間が恋愛対象外なんだ。」



「目が合うだけでうれしくて、胸が締めるけられるほど愛しいと思う気持も、灼けつくような嫉妬も焦りも怒りも、自分だけのモノにしたいという欲望も、その反面無理をして自分の存在を抹消されてしまうのを恐れて何も手出しできない情けなさも。 恋愛に関する感情の全てを君が俺に教えてくれた。 君だけなんだ。」
敦賀さんは驚いている私を見て、頷きながら話を続けた。


「でも君はまだまだ恋愛を否定していて、俺の気持ちを悟られたら避けられるだろうと思っていた。 だから先輩でも兄でもいいからいつでも君の近くに居たいって、それだけだったんだ。 子どもだなんて思ってない。 君を泣かせたくなかった。 君に拒否されたくなかっただけなんだ。」



「敦賀さんは、いつもずるいです。 恋なんかしたくないって思っていたのに、勝手に私の胸の奥の鍵を開けてしまうんです。 何度鍵をかけなおしても、一瞬で外してしまうんです。 だから、恋なんてしたくなかったのに。 いるかどうかもわからない敦賀さんの彼女さんのことを考えたらすごくすごく苦しくて、だけどちょっとでもいいから傍に居たくて・・・」
「うん。 おんなじ気持ちだね、俺と。」
「なんで笑ってるんですかあ!」
「ずるくてごめんね。」


敦賀さんに手を引かれ、私は抵抗なく満面の笑顔の彼の腕の中に納まっていた。
「これからはもっと一緒に居てくれる?」
「居てもいいんですか?」
「居てくれないと困るんだ。」
彼を見上げると、本当に困ったようなせつないような、何かを懇願するような顔をしていた。
ああ、私はこの顔にとっても弱いって知っているくせに・・・。
本当にずるい人なんだから。



「居てあげます。」
恥ずかしさをごまかすために、ちょっと強気に言ってみた。
途端に彼はまばゆいばかりの神々スマイルで私をしっかり抱きしめてくれた。
だから私も彼をしっかり抱きしめる。
「好きだよ。」
「好きですよ。」



想う人に想いが伝わる、そんな幸せを私は知った。


                                   FIN