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ひと気のない小さな控室、ドアはないけど、内緒話をするのには向いている。
言いだしあぐねている私に、貴島さんはにこにこと待っていてくれる。


「あの、ですね。男の人の意見をうかがいたいのですが・・・。」
「俺に? 敦賀君じゃダメなの?」
私が敦賀さんと同じ事務所で親しくさせていただいているということを知っている貴島さんは意外そうに聞き返した。
「敦賀さんじゃダメなんです。」
それを聞くと、貴島さんは笑顔で続きを促した。


「実は。私・・・好きな人がいるのですけれども。」
「へえ。それで?」
「でも、私はこんな風に地味で色気がなくて子どもで、その人にとっては恋愛対象外なんです。」
「俺には充分華やかで清楚な色気があって大人に見えるよ。」
貴島さんのリップサービスに思わず照れてしまう。
「あ、りがとう、ございます・・・。でも、それは衣装とかコスメの魔法とかで、そう見えるだけで、中身は全然成長していないので・・・。」
「ふむ。中身も大人になりたいってこと?」
「はい。どうしたらいいのか・・・同じようにプレイボーイな貴島さんならいいアドバイスをいただけるんじゃないかなって。」
「プレイボーイなヒトなんだ。 なるほどね。」


貴島さんはなにやら勝手に納得したようにうなずいて、いったん言葉を切ると、にやりと笑った。
「俺はまっさらな新雪にシュプールを描くって言うのも萌えるけどね。 彼はそうじゃないのかな? うん、たしかに百戦錬磨って感じだもんな。・・・そういうことなら、経験値を上げるっていうのが手っ取り早いんじゃないかな。」
「経験値ですか?」
「うん。 何事も経験だよ。 今から俺と」
そこで突然、後ろから誰かに腕を掴まれ、立ち上がらされた。



相手の顔を見上げて、私は自分の血の気が一気に下がる音を聞いた。
そこには、今まで見たことがないくらいに怒った敦賀さんの顔があったから。



これまでにたくさん敦賀さんを怒らせてきたけれど、これほどの怒り顔は初めてだ。
後ずさろうとする私の腕を掴んだまま、敦賀さんは有無を言わせず私を引きずっていく。



そんな二人に、貴島さんはおもしろそうに声をかけた。


「敦賀君がそこで聞いてるの知ってたよ。」
「わかってる。」
「本気で誘ったわけじゃないよ。」
「わかってる!」
「彼女も自分の言ったことの意味はわかってないからね。」
「わかってる!!」
「だから、あまりいじめないでやって。」
「・・・努力する。」