「今日は事務所の大先輩で、私の尊敬する俳優である
敦賀蓮さんとドライブに行ってきます。 
敦賀さんファンのみなさま、本当に申し訳ありません。 
お仕事なのでどうぞ許してください。」
「京子さんとドライブ、役得ってことで楽しみです。」
撮影なので、車は番組が用意した国産車だ。 
中にはカメラが数台セットされている。



優雅に車をスタートさせると、蓮が先に声をかけた。
「京子さんは、今日どこに行くか聞いてる?」
「いえ、ミステリードライブってことでお楽しみに、と言われました。
台本にも書かれていませんでした。 昼食の用意だけするようにと。」
「OK。 じゃあ、あとは俺におまかせということで。」



「えーっと、社長から、会話のお題というか質問をいくつかだされてるんだけど、ってこれ言っちゃまずいのか。」
わざと、質問が指定されているとばらしながら、先輩として、
後輩が話しやすい雰囲気を作っている、という形を装う。


「もう社長の無茶ぶりは世間の皆さんにもばれつつあると思いますので
大丈夫でしょう。」
「だよね。 ということで、第1問目。 お互いの第一印象は、だって。 
うちの社長にしてはありきたりな質問だね。」
「ですね。 第一印象ですか・・・。 それはまた、その、えっと・・・。」
「あはは、言いにくいんだ。 いいよ、素直に言ってごらん。」
「じゃあ・・・。 最悪でした。」
「こらこら、いいすぎ。・・・確かに感じ悪かったかもしれないけど。 
お互い誤解があったからだし?」
「でも、敦賀さんのお芝居に対するこだわりとか真摯な態度を
目の当たりにして、仕方なかったと思いました。 
不真面目に見えて不快だったんだろうなってわかりましたから。」
「いや、俺の方こそ、表面だけとらえて、君の本質というか真面目で
一生懸命なところに気づけなくて悪かったと思ってます。」
蓮がおどけて頭を軽く下げる。
「いえ、最初に厳しく接していただいたおかげで、今があると思ってますので、本当に感謝しているんです。」
「では、今はともかく、第一印象はお互いサイアクってことで。」
「はい。 そういうことで。」


言葉とは裏腹に二人揃ってにっこりと笑う。


社は中継車でモニターと音声を確認しながら、スタッフと移動だ。
「なんか、敦賀さん、いつもと雰囲気が違いませんか。」
スタッフの言葉に、笑いながら社は答える。
「いや、いつもあんな感じですよ。」


――蓮の方はいつもはもっとデレっとしてるけど・・・。


「本当に可愛がってる後輩って感じですねえ。 第一印象サイアクなんていつも温厚で紳士な敦賀さんっぽくないかと思ったんですが、京子ちゃんの話しぶりから仕事に厳しい敦賀さんらしいってわかりますし、きっと後輩の将来を思ってのことだったんでしょうね。」
「そう、ですね。 たぶん。」


――最初に会った時のことは俺も知らないからなあ。 どうも不破がらみで本当に最悪な出逢いだったみたいだから、怖くて聞けないし。