企画の最後、『敦賀蓮とドライブ』はいつの間にか

『敦賀蓮とドライブデート』になっていた。


台本を見た途端、キョーコの口から文句がこぼれる。


「な、なんでーー? デートって、なんなんですかー? 

ただのドライブでいいじゃないですか!

敦賀さんのファンに殺されますー。 

だいたいなんで殺人的に忙しい敦賀さんが私とドライブなんて

企画受けてるんですか!? スケジュールがあわないって

お断りされるとばかり思ってました。」

「え、なんで? 最上さんメインで社長の企画なんだから

断るわけがないだろ。 タイトルにしたって

別にたいした意味ないんだから、そんなに気にしなくたっていいよ。」


明るくフォローしながらも、蓮はキョーコの言い分に心の中で
若干落ち込んでいた。


――そこまでデートを嫌がるかな? まあ仕方ないかもしれないけど。


「あ、そうだ。 最上さん、じゃまずいかな?」

蓮はキョーコの耳元に唇を寄せると
「キョーコ、って呼ぼうか。」 とささやいた。

耳に息を吹き込まれたキョーコは、鳥肌をたてて蓮から飛びのいた。 
耳を押さえて真っ赤になったキョーコを見て、やっと蓮は満足げに笑う。

傍から見ている社は、呆れるばかりだ。


――蓮、カメラが回ってるときは控えてくれよ。



「一応注意しておくけど、先輩後輩というラインは忘れずに。 

特に蓮は本性が出ないように気をつけて。」
「本性って、ひどいな、社さん。 どういう人間なんですか俺って。」
「誰にでも優しくて温和な人気俳優だろ。 

ただしキョーコちゃんの前では確実に違う。 

俺個人的には年相応のお前は安心するし、応援もしたい。 

だけどいつもの親密さっていうか素のやりとりはマネージャーとして、

テレビ的にはノーだ。 お前のイメージだけじゃない。 

キョーコちゃんの今後にも影響が出る恐れがある。 

二人きりだけど、カメラもマイクも入ってる。

衆人環視の中だと言ってもいい。 

番組だって言うことを常に心がけてくれよ。」


番組スタッフのいない瞬間をねらっての社の注意に蓮もキョーコも、神妙にうなずいた。


――確かに、いつもの言いたい放題な態度は後輩としていきすぎなのかも。 敦賀さんのファンにきっと、生意気だって吊るしあげられちゃうわ。 気をつけなくちゃ。


――俺は何を言われても構わないけど、最上さんをかわいそうな目にあわせたくないからな。


「わかりました。」


蓮とキョーコは異口同音に答え、顔を見合わせて微笑った。




――そういうところを撮られると困るんだって。 二人とも自覚してないけど、どう見てもカップルっぽいんだから。


社は二人を見ながら、大きな溜め息を吐いた。