type C』



「愛してるよ」



「へ?・・・えええっっっ!!!」

(うん、そうだろうな。)

想定内のキョーコの反応に、ついニンマリしてしまう。

(やっぱり思ってもみなかったんだね。)

あたふたするキョーコを軽く抱き寄せながら、背中をぽんぽんと撫でるようにたたく。


「ごめんね? びっくりしちゃったよね? 

やっぱり気が付いてなかったんだね。

ずぅっと君の事が好きだったんだよ。

・・・俺は大事な人は作れないって思ってた。

でもいつの間にか君が大事な人になってた。

・・・だけど、君はまだまだ恋愛に対して拒否していたから、

そっと見守っていようって思っていたんだ。

君が恋愛をくだらない感情だと思わなくなった時を見逃したくなかったからね。その時、誰よりも傍にいて、一番に俺という存在を君にアピールしたかった。・・・まだ君はこんな気持ちを受け容れられないかもしれない。

・・・だけど、考えてみて? 俺は先輩? 兄貴役にしかなれない? 

恋人とか本当の家族とかにはなれない?

・・・答えは急がない。4年も耐えたんだ。まだまだ何年も待てる自信があるよ。・・・君の答えが出るまで、いや、君の答えが否でも、これからもこの今の複雑な関係は壊したくないと思ってる。

 こんな俺は女々しくて嫌い? 

実はそれが怖くて、君に想いを告げることが出来なかったんだ。

情けない話なんだけどね。

・・・俺は君を手離したりはしない。むしろ俺のほうが君がいないとダメかもしれない。・・・だからね、ゆっくり考えて。こんな自分勝手で情けない男と付き合っていけるかどうか。」

蓮は最後にもう一度キョーコの背中をぽんぽんと軽くたたき、腕の中から解放した。

「ご飯、食べようか。」



それからしばらく、蓮の居るときにキョーコが蓮の部屋を訪れることはなかったが、食事の用意だけはいつの間にかされていて・・・。数日すると、蓮の居るときにも来るようになった。

以前と同じように装いながら、その瞳にはまだ迷いがあって・・・。

蓮は辛抱強く、キョーコの瞳の表情を観察し続けた。



「そういえば、来週の社長主催のパーティって出席するんだったよね?」

「はい、社長命令なので、不承不承なのですが。ドレスも決めておいたからって。もう本当に困った人ですよね?」

「楽しみだな。君のドレス姿。時間があったら踊ってもらおうかな?」

「考えて、おきます。」

すっと、瞳をそらすキョーコに、蓮は、まだまだかな、と苦笑する。



パーティ当日。

「キョーコちゃん、すごく似合うわよ、そのドレス。さすが蓮ちゃん。キョーコちゃんのこと良く見てるわね。」

社長お仕着せのドレスだと思っていたのに、ドレスも靴もアクセサリーも、実は蓮が用意してくれた物だと、メイクをしてくれたミス・ジェリーウッズが教えてくれた。

キョーコは蓮のさりげない心配りに、いつまでも待たせていてはいけない、と心を決めた。

(明日にでも、敦賀さんにちゃんと伝えよう。)



遅れて来た蓮が会場で見つけたのは、事務所の俳優やタレントに囲まれて、ダンスを申し込まれ困惑するキョーコの姿だった。
だが、蓮が歩み寄ると、無意識にか、ホッとした顔を見せてくれる。

キョーコの瞳に決意を見とめた蓮は、キョーコの足元に片膝を付き、指輪を差し出した。


「Will you marry me?」

蓮の突然の行動に、ざわついていた会場が水をうったように静まり返る。

「こんなのずるいです! 何年も待つって言ったくせに。」

「見逃さないとも言っただろう? 今がその時だ。」

「お付き合いも何もかもすっ飛ばしてますよ。」

「いいんだ。結末は変わらないんだから。」

微笑んだ蓮のゆるぎない瞳に、キョーコは小さく息を吐いた。


「・・・あなたには勝てる気がしません。」

キョーコは顔を真っ赤に染めて、左手をおずおずと差し出した。

「不束者ですが、よろしくお願いします。」

蓮は薬指に指輪をはめると、キョーコを抱きしめて、頬にキスをしながら囁いた。

「逃げるよ。」

言うが早いか、蓮はキョーコを抱き上げて駆け出した。

余興か撮影かと固唾を呑んで見ていたギャラリーから、ようやく悲鳴や叫び声があがる。


ドア前で待機していた社が、

「おめでとう!」と迎えてくれる。

「後はよろしくお願いします。」

「仕方ないな、こんな大騒ぎにしちゃって。でもまあ社長と俺が何とかするから、心配すんな。」

「ありがとうございます!」



車の中で、キョーコはちょっとふくれて見せた。

「明日から、大変ですよ? 取材とか。」

「いいんだ。幸せだから。君は?」

「・・・幸せです。」

そっぽを向いて小さく呟く姿も可愛い。

「愛してるよ」

蓮の言葉に、キョーコはキューティーハニースマイルでうなずいた。

                          FIN