R★K12カ月計画の3月拍手に採用していただいたお話です。

絶対視感?恐ろしく見てるのは誰かさんだけじゃない

きっと、蓮もめちゃくちゃ見てると思って書きました。


☆☆☆☆☆




『彼女は誰?』




タレント部の前の廊下で俺の担当俳優、

敦賀蓮がいきなり足を止めた。

どうしたのかと見ると、

廊下に貼られたポスターの一枚を見つめている。




色とりどりの花で幻想的に彩られた中に一人の少女が写っている。

腰から上の後ろ姿、天を仰いでいる構図だ。

何も身に着けていないと思われる背中。

ヴェールのような薄いシフォンの生地だけをはおっている。

『無垢な素肌を護りたい』とある。

10代の女の子向けのボディケアシリーズのポスターだった。





「ほぉ、綺麗だなあ・・・。」

思わずこぼした声にピクリと反応した蓮は、

鋭い目つきで横に立つ俺を見下ろした。

(何?何がいけなかったんだ?俺、素直な感想をもらしただけだよな?)

慌てて自問自答する。


だって、本当にそのポスターは綺麗だった。

構図も花も、女の子の凛とした後ろ姿も。

10代の女の子らしいその子は、

均整のとれたすらりとした身体つきで、

シフォンから透けて見える素肌も神々しく感じられて、

いやらしさは全く感じない。




「いいだろう、それ。」

いつのまにか椹さんが蓮の横、俺の反対側に立っていた。

「いいですね、すごく。綺麗で、つい見惚れちゃいますよ。」

椹さんの言葉に俺が答えたとたん、周りの温度が下がった気がした。

それに気付かないのか、椹さんは話を続ける。

「だろう。今までの役の立ち姿が綺麗だからって、

ぜひにとオファーがあってな。

スタッフも全員女性ですごく仲良くなれたとか、

仕事前にエステに連れて行かれて、

背中だけだって言うのに全身やってもらって

ラッキーでしたとかって喜んでた。

なのに、誰にも言わないでくれって言うんだよ。

イメージアップにも絶対に良い、って言ってるんだけど

相変わらず欲が無いって言うか、何て言うか・・・。」


「この件に関しては俺も同意見です。絶対誰にも言わないで下さいね。」

ずっと黙っていた蓮が、ぼそっと言った。

「あれ?蓮、これが誰か知ってる口ぶりだな。聞いたのか?」

「いいえ。でも、わかるでしょ。」

いや、俺はさっぱりわからんぞ、

ってなんで赤くなって目を背けるんだ?

って、もしかして・・・。


「え、えええぇぇ・・・!!」

もう一度、ポスターをじっくり見ようと近付こうとした瞬間、

俺はものすごい力で引っ張られた。

「さあ、社さん、そろそろ行きますよ?」

見上げれば、いつかどっかで見たことのある嘘くさい笑顔が降ってきた。

これ以上、このポスターを見るな、と言われた気がして、

引かれるまま、その場を立ち去ろうとした時、

「あ、来週からCFも流れるから」

と、最後に後ろから、盛大に大きな爆弾が飛んできた。


まずい!!

これからのこいつの機嫌が心配だ・・・。

そりゃ、確かに世間様に彼女が誰か知られたら、

馬の骨がウイルス並みに増殖しそうだよな。




「お前っていろんな意味で凄いな・・・。」

俺は聞こえるか聞こえないか位の小さな声で呟いた。

いくら好きな子って言ったって、

あれだけでは誰だかわからないぞ、普通。

しかも、このふつふつと感じる独占欲?

「社さん、彼女が誰か気がついてしまったかもしれませんが、

忘れて下さいね。

そして、決してそういう目で見ないで下さいねっ。」

そういう目ってどういう目だよ。

お兄さんなんだか泣きたくなってきたよ。

その無駄にキラキラした笑顔やめてくれー。

              fin