R★K12カ月計画の10月拍手に採用していただいた作品です。

長いので2話に分けました。

楽しんでいただけると幸いです。

うちの蓮さまは 乙女です。


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ある昼下がり、事務所にきてぽっかりと時間のあいてしまったキョーコは

出入口近くのカフェのオープンスペースで、ほけーっとして座っていた。
DARKMOONの撮影も終わり、今日は学校も他の撮影もない。
椹さんにちょっとした雑用は頼まれたが、それももう完遂してしまっていた。

ふっと、胸元に手が行く。
ここ最近はナツ以外の時もいつもつけている

プリンセスローザで作ったペンダント。
そっと外して目の前にぶら下げた。
――――
敦賀さん、どうしてるかなぁ。
DARKMOONの撮影が終わって、以前からの予定だったという

海外の仕事に行くということだけしか聞かされていない。
出かけるという前の晩、しばらくいないから、と電話をくれた。
いろいろ注意されてまた子ども扱いされた気がするが、

それはそれでなぜかいやではない。
むしろ、うれしかったくらいで・・・・。
もう、ひと月になる。時差が気になって、

なにより用事がなくて、電話もメールもためらわれる。
「逢いたいなぁ・・・」
自分では気付かぬまま、こぼれる声。

「逢いたいなぁ・・・」
斜め後ろで背を向けていたため、お互いに気付いていなかった社は、

聞き覚えのある声に振り向いた。
海外の仕事とはフェイクで、蓮はBJとして撮影に入っているため、

別行動の社は事務所にいることが多かった。
この日はカフェで一人、遅い昼食をとっていたのだが。
振り向いた先には、キョーコが手元を見つめて

乙女顔でほぉっとため息をついている。
――――
キョーコちゃん、まるで恋する乙女だね。!!って誰に!?
 

 誰に逢いたい の!?
焦った社はキョーコの見つめる手元を確認しようと思わず立ち上がった。

「逢いたいなぁ・・・」
事務所を出るために、エレベータを降りてきたブリッジロックの3人は、

目ざとくカフェのキョーコを見つけていた。
「キョーコちゃんだ」
「あ、ほんとだ」
「なんかいつもより、かわいくね? っていうか色っぽくね?」
「・・・うん」
「リーダー声かけなよ」
「でも、あんま時間ないし・・・」
ごちょごちょ話している間にキョーコの手を

突然現れたチンピラ風のサングラスの男がつかんだ。


「逢いたいなぁ・・・」
黒崎潮は急ぎの用事でLMEにやってきたのだったが、

すぐにカフェのキョーコに気がついて、

声をかけようと近寄ったところだった。
目の前にぶら下げたペンダントトップを見つめながら、

ため息交じりに発した言葉。
――――
いいじゃないか! その雰囲気、ぴったりだ!

 このまんまいただきだな!



撮り終わって発表するばかりだったCMのタレントが不祥事を起こして、
ボツになったばかりで、

新しいCMをさっさと撮りなおさないと間に合わない。
珍しく焦っていた黒崎はイメージに合う、

しかも今日時間のあいているタレントを探しに

所属人数の多いLMEに直談判に来たのだった。
「おう、京子。今日暇か? ちょっと来い!」

見るからに怪しげな黒崎に、立ち上がった社や
近寄りつつあったブリッジロックがギョッとするが、
キョーコはさっと立ち上がり、きれいなお辞儀をする。
「黒崎監督、ご無沙汰してます! 

キュララのCMではお世話になりました。」
「おう。お前今日暇か?」
「はい。」
「じゃあ、来い。CMのタレント探してたんだ。今のお前、ぴったりだ。」
手を掴んで連れ去ろうとする黒崎に、社がやんわり声をかけた。
「黒崎監督、はじめまして。ご高名はかねがね伺っております。
LMEでマネージャーの仕事をしております社と申します。」
「ああ、どうも。・・・京子のマネージャー、じゃないよな。」
突然の黒崎の行動にも、社の登場にもびっくりしているキョーコを見て、

黒崎が聞く。
「はい。ですが、CMのオファーということでしたら、

タレント部を通していただきたいと思いまして。」
「ああ、もちろん。どこへ行けばいいかな。」
「ご案内します。 一緒に行くよ、キョーコちゃん。

オレも椹さんにちょっと用事あるし。」
「すみません、社さん。」
監督として、有名な黒崎とはいえ、馬の骨じゃないとは言い切れない。
蓮が表立って動けない分、ちょっと動いてやるか・・・。
ちらっと見えたキョーコの手の中のプリンセスローザ。
――――
これって、逢いたいって、蓮のこと!?

それって、いい方向なんじゃないの

ブリッジロックの3人は黒崎にギョッとしていたが、

社が同行したことでホッとして、次の仕事に、と事務所を出て行った。