注・とっても怖くて純粋でヤンデレなパラレルロロです。しかも流血だらけです。
それでもOKな方のみどうぞ。

もし、ルルーシュがロロに電話を入れなかったら・・・こんな展開になるのではと昔考えていました。




「殺しに来ました。ゼロを」


そう言う僕を、青年は殺気をたぎらせて阻んだ。
伝わってくる気迫から、相当の達人だという事がわかる。
でも・・・だから何?という感想しか僕には思い浮かばない。
僕は、ずっと普通の暗殺者には手に負えない殺しばかり請け負って来たのだから。


心臓を激しい痛みが襲うが、そんな事はもう慣れた。
時を止めた青年を一突きにし、僕はギアスを解いた。


崩れ落ちていく上官の姿を兵士どもが驚愕の視線で見つめていた。


「・・・通りますね。」


僕が歩を踏み出すと、兵士達は一斉に後ずさる。
魔物か死神でも見たかのような顔をして。
それでいい。僕は他人にとってそういう存在だから。


再びヴィンセントに乗り、呆けた兵士を皆殺しにしてからご立派に作られた門をランスで砕く。


手に持っていた携帯がなり続ける。
発信者はスザク・クルルギ。
僕の上司。

用件なんかわかっている。
僕の機体は誰が見てもブリタニア製。
中華との国交問題になる。

でもそんな事、僕の知ったことじゃない。
携帯に出る必要など無い。
僕が連絡を待っているのはたった一人だけ。


応戦して来た警備員や黒の騎士団員も一人残らず殺して進むうちに金に輝くヴィンセントののランスは血で真っ赤に塗られていった。

屋敷内の床も壁も血で染まり、いつしか動くものはもう誰一人としていなくなっていた。
それでもゼロが見つからない。

僕はヴィンセントを降りた。


「兄さん!兄さん!!」


叫んで歩く。

息のあるものには止めを刺しながら。

本当はバベルタワーの中で見つけるはずだった。
もう少しだったのに爆発に行く手を阻まれた。
でも兄さんが生きているなら必ず此処に居るはずだ。
今度こそ見つける。
たとえ血の海を渡っても。


中央から少し外れた部屋を開けたとたん、緑の髪の少女がナイフを手に突っ込んで来た。
C.Cだ。

ブリタニア皇帝が捜し求めた不老不死の少女。
でも、僕にとってはただの邪魔者。

永き年月を渡って来たとは言え、彼女の身体能力は聞いていた通りたいしたものではなかった。
ナイフを持つ手首をねじりあげ、盾とする。
C.Cがここに居るという事は、C.Cと行動を共にしていると報告されている彼女が居るはずだ。

「チッ、お見通しってワケね。」

机の影に潜んでいた赤毛の少女が銃を手に現れる。
おそらく此処に来るまでに僕の事はいくらか情報が渡っていたのだろう。

全てを殺して押し通る僕を不死人のC.Cが捨て身でまず気をそらし、腕に覚えのあるカレンが確実に仕留める。
悪くは無い案だ。

「あ・・・あんたね・・・こんな事をして・・・・・。」

銃を握るカレンの指が震えている。怒り。恐怖。どちらも入り混じっているのだろう。
でもたかがこんな事ごときで動揺するなんて、黒の騎士団員は本当に手ごたえが無くてくだらない。


「・・・兄さんを探してるんです。カレンさん、知りませんか?」


首をかしげてそう聞くと、彼女はひきつった唇を開いた。

「にいさんって誰よ。あんた偽・・・。」

彼女の唇がその後を紡ぐことはなかった。
時を止めたその直後、正確に眉間を打ち抜かれ、その場にくず折れた。


「カレン・・・!!」

驚愕するC.Cのポケットに超小型プラスチック爆弾を押し込むとそのまま突き飛ばした。
よろめく彼女が吹き飛ぶ寸前、物陰に身を隠し、煙が収まるのを待った。

不死身の彼女はいずれ再生するだろうが木っ端微塵となった体を再生するには相当の時間が掛かる。
その間に兄さんを探さねば。


「ロロ・・・。」


部屋を仕切るカーテンの奥から捜し求めた姿が浮かび上がった。

「兄さん!!」

駆け寄る僕に兄さんは後ずさった。

ああ・・・ナイフをしまうのを忘れていた。

僕はナイフを何度度か振って丁寧に血をぬぐうとポケットに戻した。

「兄さん、無事でよかった!やっぱり黒の騎士団に捕まっていたんだね。さぁ、ゼロを殺して僕と帰ろう。」

にっこり笑って手を差し伸べたのに、兄さんはその手を振り払った。

「にい・・・さん・・・・?」

首をかしげる僕に兄さんは言った。

「よくも・・・よくも皆を殺したな。カレン、C.C、藤堂、扇・・・俺の仲間を・・・。」

「仲間?何を言ってるの?そこらに転がっているのは汚いテロリストとブリタニアに逆らう敵国人だよ?
僕の優しい兄さんとは何の関係もないじゃない?」

「本気で言っているのか?」

「当たり前だよ。あ、そこの赤毛の女が今回のゼロだったのかな?馬鹿なことして。あはは。」

赤毛を掴んで顔を見ると涙が一筋流れていた。
泣きたいのはこっちだよ。

僕の大切なたった一人の兄をかどわかすなんて。

でも、もう大丈夫。やっと見つけた。
誰よりも何よりも大切な、僕だけの兄さん。


「さぁ、テロリストたちの死体を土産に僕と帰ろう。国交問題とかはちょっとやっかいだけど、C.Cも見つかったし、彼女の肉塊を皇帝に差し出して僕が兄さんの助命を請うてみるよ。もう何も心配しなくていいんだ。助命がかなえられなかったら皇帝も殺すから。僕が兄さんを守るから。」


兄さんは僕をずっと睨みつけていたけれど、ふ・・・と表情を和らげ、嬉しそうに微笑んだ。

「・・・そうか、お前が俺を守ってくれると言うのか・・・。」

「そうだよ。たった一人の兄さんだもの。世界中の人間を殺してでも守ってあげる。」

「・・・俺がゼロでも?」

「え?うん。もちろんだよ。僕は兄さんみたいな優しい人がゼロのわけが無いって信じてここまで探しに来た。
でも、もし兄さんがゼロだったとしても僕は兄さんを否定しない。どんな兄さんでも大好きだよ。」

そう、僕は兄さんが好き。本当に大好きなのだから、どんな兄さんでも受け入れられる。
兄さんが昔僕にそう言ってくれたように。
誕生日に

「お前が側に居てくれるだけで幸せだ。どんなお前でも大好きだよ。」

と言ってくれたように。

それに僕は1年間兄さんと一緒に暮らして来た。
だから、どんなに悪ぶったって、たとえゼロであったとしても兄さんは本当は優しい人だとちゃんとわかっている。


「・・・なら・・・そう思うのなら・・・。」

兄さんがいつものように優しく微笑む。

「ありがとうロロ。お前が迎えに来てくれて嬉しいよ。」

「うん!兄さんならそう言ってくれると思ってた!」

僕も嬉しくなってにっこりと微笑む。
ほらね。僕の兄さんは優しいんだ。たとえ人殺しの僕であったってこうやって変わらず優しく接してくれる。
ヴィンセントを無理やり借りてでもここに来て良かった。

「ロロ・・・頼みがあるんだ。」

「何?」

「俺はずっと皇帝に命を狙われて来た。
あいつが居てはお前と穏やかに暮らせはしない。
俺のために誰を殺してもかまわないと言うのなら、ブリタニア軍を・・・ブリタニア皇帝を殺してくれ。
それから皇帝を守るラウンズも。」

「ふうん・・・いいよ。兄さんがそうして欲しいなら。ブリタニアに逆らったことなんか一度もなかったけど、兄さんが望むのならやってあげる。」

そう言って血まみれの手で抱きつくと兄さんは僕の頭をよしよしと撫でてくれた。
気持ちがいいな。
僕の優しくて綺麗な兄さん。
大好き。


僕は兄さんの指示通りのルートを使って兄さんと共に領事館を脱出した。
領事館を振り返る兄さんの瞳が少し潤んでいるように見えるのは気のせいだよね。
だってもう、帝国を潰すために利用してきた黒の騎士団なんかいらないはず。
兄さんには僕がいるんだから。


その後僕は兄さんの指示の元あらゆる暗殺を行った。
まずは民間のセレモニーに来ていたナイトオブスリー・シックス・セブンを殺した。
とても簡単だった。

ナイトオブセブンは確か兄さんの親友だったはず。
そんな彼を殺す仕事を僕に任せてくれたのは凄く嬉しい。

他国と交戦中だったナイトオブワンとテンは時を止め、奪った長距離砲で撃破した。
範囲の広いギアスは本当に苦しいけど、兄さんのためなら我慢できた。

そうやって交戦中のどさくさに紛れて他でも頭を潰してやればブリタニア軍は指揮を失って次々自滅していった。


最後にブリタニア皇帝の首をあげた。
本当はナナリーもついでに殺しておこうと思ったけど、兄さんが

「そんなどうでもいい小娘は放っておけ。俺はお前とだけずっと一緒に暮らすのだから。」

と言ってくれたので見逃してあげた。


別に僕だってナナリーなんかどうでもいいんだ。
兄さんはナナリーに

「お前なんか昔から嫌いだった。足手まといで何の役にもたたない。」

と言捨てた。
だからもうどうでもいい。
兄さんが興味を持たないナナリーならその辺の石ころも同然だ。
ブリタニアも無くなったから、その辺の庶民として生きるなり死ぬなりすればいい。

ナナリーは「お兄様は酷い。」と泣き伏していたけれど、酷いのはどっちだよ。
兄さんに負担ばかりかけて当たり前のように妹の座に居座って。

もう兄さんの敵は居ない。
僕が全部排除した。
僕は兄さんとの約束を守った。
今度は兄さんが僕の望みを叶えてくれるだろう。


これからまた、僕と兄さんは静かに穏やかに暮らす。
そもそも昔から僕は兄さんんに特別な事を望んだことはない。
ただ、側に居てくれるだけでいいのだ。

稀代の頭脳なんか無くても良いし、立派な地位も贅沢も望まない。
一緒にお料理を作ったり、お買い物に行ったり。
時々夕涼みに出かけて、他愛ない事を喋ったり。一緒にお茶を飲んだり。
そうそう、窓辺には兄さんの好きな花を飾らなきゃ。


大好きな兄とただ二人、穏やかに暮らす事だけが僕の望み。


「ロロ・・・」

兄に優しく呼ばれたことが嬉しくて僕は振り向いた。
その僕の胸を銃弾が貫いた。

「にい・・・さん・・・?」

倒れていく僕を兄さんは受け止めた。

「俺はお前を生かしてはおけない。」

何が起こったのかわからないまま瞬くと、パタパタと兄さんの涙が顔に掛かった。

「お前の事を憎んだよ。でも、お前は結局俺の鏡だった。お前は俺だったんだ。
・・・ごめん、ロロ。いつまでも一緒に居てやるからこの愚かな兄を許せ。」

銃声がもう一発こだまする。

それは兄さんの胸を貫いた。
ああ、僕を貫いたその銃で兄さんも胸を貫いたんだね。

重なるように倒れあい、お互いの血がお互いを染めていく。

こういうのも幸せと言うのだろうか?
僕にはよくわからない。

でも、僕が望んだのはただ兄さんと一緒に居る事だけ。
それ以上望んだことは無かった。

・・・だから、例え死んでも兄さんさえ一緒に居てくれるのなら、やっぱりとても幸せなのだ。


もの心ついてからずっとずっと・・・

殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して・・・・・・。

そんな僕に唯一人優しくしてくれた人。

命も魂も捧げてもいいと思った人。

愛してる・・・兄さん・・・・・・・。

初めて流した涙は紅い血溜まりに吸い込まれていった。

注:パラレルです


ロロは死んでいません。

ロロとほぼ同じ遺伝子を持ったギアスユーザーが出てきます。

以上OKな方のみどうぞ。






どうして自分は此処にいるのだろう。

ブリタニアという国のためにだけ生まれ、ブリタニアに尽くす事だけで生きて来た僕。
親は居ない。
ギアスを発現出来る可能性を持った者の遺伝子を寄せ集めて作られた僕だから。

兄弟もいない。

・・・ただ、遺伝子の99・99パーセントまで同じくして生み出された双子とも言える存在なら居る。

何故か顔を合わすことは許されなかったが、資料で見たあいつは僕と全く同じ顔をしていた。

宿す能力も同じ。

絶対静止の力。

・・・ただしあいつは欠陥品だ。
ギアスを使うたび、心臓が止まる。
完成品の僕とは違う。


ある日、僕と同じ顔をした欠陥品は、V.Vを裏切り、離反した。

ありえないことだった。
響団で育ったものがV.Vを裏切るなんて。

至急帰るようにとの連絡を任務中に受けたが、まさかそのまま響団が壊滅してしまうなんて思いもよらなかった。

僕は帰る場所を失った。


響団で育つギアスユーザーは心を持たない。
任務だけが全て。
そう刷り込まれ、任務のために命すら捧げる。
当然だ。
僕達は道具として作り出された。
だから道具のように使われ、死んでいくのだ。

それに疑問を抱いたことなど無い。



帰るべき響団を完璧に破壊され、僕は戸惑った。
僕は任務を果たすためだけに生きて来たので、V.Vからの命令がないと、どうして良いかわからない。

V.Vの同志であり、兄弟でもある皇帝のところに行けばいいのだろうか?
いや、そこには行けない。
何故なら、V.Vからコードを奪い、死に至らしめたのは皇帝なのだから。

それでは僕は何処に行けばいいのだろうか?

何処にも僕の居場所なんて無い。

僕を待っている人も居ない。

響団が殲滅された今、僕の事を知っている人さえいない。

つまり僕はもう、存在しないに等しい死んだ道具なのだ。

だからもう食事を取る必要も無い。
眠る必要も無い。

ただ、朽ち果てていけばよいのだ。


しかし、死が訪れようとしたその瞬間、僕と同じ顔をした奴の事を思い出した。

まだ死ねない。

V.Vが死んでしまった今、僕に使命などありはしない。

でも、V.Vを裏切り、僕から任務を奪ったあいつだけは殺しておかねばならない。

別にV.Vが死んでしまったからと言って特別な感傷があるわけでもない。
僕は道具で、そういう風に育てられたから。


しかし、僕の帰る場所を奪った壊れた道具であるあいつを完全に破壊しておかなければいけない。
それまでは終われない。

奴はV.Vを裏切った後、偽兄と共に皇帝を倒し、新たに皇帝にたったルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの腹心として過ごしているという。

TVに映ったあいつは僕が浮かべたことの無い、幸せそうな微笑を湛えていた。

あれは誰?

響団で育ったものはあんな微笑を浮かべない。

皆、氷のように笑うのだ。

それなのに何故。



衰弱しきった身体を引きずってよろよろと最後の任務のときにあてがわれた部屋を出た。
もうすぐ手持ちのお金も尽きる。

通りかかった人が、よろめく僕に声をかける。
こいつは金を持っているだろうか。

ギアスを使うまでも無く、ナイフでそいつの首を掻き切った。

乾ききった喉を潤すために、流れ出した血をぴちゃぴちゃと舐めた。

程なく殺した男の連れがやってきたので、そいつも殺して金を奪った。

さぁ・・・。

行かなくては・・・。


僕と同じ顔をした、あいつの所に。




続きは明日投稿します。




ギアスの力を使えば、ブリタニア宮殿に忍び込むことなど造作も無かった。
僕は暗殺者。
いつもこうやって常人には入りこめない場所まで行って、ターゲットを暗殺した。

宮殿の奥深くにロイヤル・エリアがある。
皇帝に近しき者しか入ることを許されない神聖な場所。

衛兵が居たが、かまわず進む。
僕の顔を見ると、皆、頭をたれた。

同じ顔である、コードナンバーS966・・・すなわちロロだと思っているのだろう。
なに、気づかれたら始末してしまえばいい。
奴は失敗作だったが、僕は違う。

割れるような頭痛と引き換えにだが、何時間でも時を止めていられる。


ふと、笑い声が聞こえた。
僕と同じ声。

時を止めて、ドアを開ける。

そこには偽兄と共に、ソファーに座り、何とも嬉しそうに微笑むあいつが居た。

偽兄はそんなあいつの頭に手をやり、撫でていたようだ。
瞳に限りない愛情を湛え、暗殺者として何千人も葬って来たはずのこいつに警戒の色を浮かべる事も無く、むしろ安心しきったように接している。

何故?

偽兄はこいつの力を知っているはずなのだから、もっと警戒するのが普通だろう。

僕は、この力のせいで、同僚にさえ恐れられ、疎まれた。
道具である僕が、そんな些細な事をいちいち気にする事は無かったが、同じ顔をしたこいつがこんな風に幸せそうにしているのを間近で見たとき、心が小さく悲鳴を上げた。


ほぼ同じ遺伝子を持っているはずのこいつは何故笑っているのだろう。

何故こんなに幸せそうなのだろう。

穏やかに、愛らしく、兄を見つめて無防備に頭を差し出しているのだろう。


どれ程の時をそうやって呆然と過ごしたことだろう。

僕はふと我に返った。

殺さなければ・・・こいつを。この、壊れた道具を。


しかし同時に、僕の心の中に、不思議な感情が湧き上がった。

もし、こいつが命じられた偽弟としての任務が、僕に下されてたら・・・?

・・・僕がこんな風に愛されたのだろうか?
こんな風に幸せそうに笑うことになったのだろうか?


任務しかない僕。

それに比べて、まるで人間のように幸せそうなこいつ。

こいつにどんな魔法をかけたのか知らないが、この偽兄と居るということは、そんなに幸せな事なのだろうか。

僕は時を止めたまま、もう一人の僕であるロロから服を奪い、僕の服をロロに着せた。
そうして即効性の睡眠注射を打ってあまり使われてなさそうなクローゼットに隠した。

これでしばらくは発見されないだろう。
ロロは3日間眠り続ける。

もちろん殺してしまっても良いが、流れた血の始末をするのは面倒だ。
毒薬で無傷で殺しても、この季節なら、すぐに腐臭が漂ってくる。
今はこれでいい。

ほんの一時、偽りの兄弟ごっこを楽しんだ後、ちゃんと殺してあげるから。


ロロに摩り替わった僕は、ロロが元居た位置に座りなおした。

ギアスを解くと、偽兄の暖かい手が、僕の頭を撫でた。
思わず身をすくめると、偽兄が怪訝そうな顔をした。

「どうしたロロ?」

低く甘い声色。
今まで一度も僕に向けられる事は無かった声。

「ううん。何でもない。」

そう言うと、偽兄は僕をゆっくりと、まるで宝物でも扱うかのように抱きしめた。

その温かさがおそろしく気持ちいい。

探るように偽兄の背に手を回し、ぎゅっと力を込める。

すると偽兄はいっそう力を込めて僕を抱き返してくれるのだ。


何だろう、この感覚は。
冷たい身体に温かい血が流れ込むようなこの不思議な感覚は。

道具ではなく、生きた人間であるかのようなこの感覚は。

魔法をかけられてしまった。
きっとこれがこの男のギアスに違いない。
でも初めて知るこの感覚に溺れずにはいられない。

「兄さん・・・。」

ためらいがちに囁けば、兄さんが応えてくれる。


ああ。僕はこの人が欲しい。
この人に満たされて、僕も人間になりたい。
唐突にそう思った。


それから僕は必死で弟のフリをした。

この人に愛されたい。
その思いだけが僕を動かした。

道具としてしか扱われたことの無い僕を愛してくれるこの人を僕は愛した。


とても、とても、とても、とても、とても、とても・・・。


だから、この人に触れようとするものは許さない。

尋ねて来た妹がいた。
僕は彼女を知っている。

ロロの振りをするために・・・兄さんの弟で居るために、僕がまずやったのは彼の経歴や親しい人を調べる事だった。

皇帝たる彼の経歴その他はネットで驚くほど簡単に調べられた。

最愛の妹・・・ネットにはそう書いてあった。
兄に甘えるその様子に僕の心は波立った。

時を止め、その妹に心臓麻痺を起こす薬を注入した。
ギアスを解いて見ているうち、兄にまとわり着いた妹はあっけなく死んだ。


兄は嘆き悲しんだけど、僕は幸せだった。

次の日、ナナリーの訃報を聞いてスザクと言う男がやってきた。
この男は兄さんの幼馴染で親友。

また僕の心は泡立った。


僕はナナリーの棺の近くにその男が近づき、ひざまづいたその時を狙って絶対静止のギアスをかけた。

すぐそばに供えられたロウソクをカタンと倒すとあっという間にスザクの服に燃え移った。

ギアスを解いて奴を見る。

火を消そうと転げまわる姿が面白かった。

でも火は消えないよ。

消える前に僕がギアスを使うから。


体を使って火を消し止めようとする兄さんを危険だからと押し留めつつ、絶妙のタイミングでギアスを使う。

僕のギアスは体感時間だけを止める。
だから、スザクさんが動きを止めている間にまた燃え広がるのだ。


焼死と言うのは死の中でも最も苦しいのだと言う。
いい気味だ。

僕は薄く笑った。


妹と親友を失った兄さんはこれ以上ないほど嘆き悲しんだ。

でも僕は嬉しかった。幸せだった。


最も排除したい二人は葬った。

あとはあいつを始末するだけ。

そう、僕と同じ顔をしたあいつを。
そして僕は本物の弟となるのだ。





続きは明日投稿します。スクロールしてお読み下さい。