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 アイルランドの作家ロディ・ドイルの長篇『さよならのドライブ』(こだまともこ訳、こがしわかおり絵 フレーベル館 )は、若くして亡くなった曾祖母の幽霊と出会った三世代の女性たちが、家族との絆を再確認するという、静かなゴースト・ストーリーです。

 祖母エマーが体調を崩し入院していることに加え、親友だったエイヴァが引っ越してしまい、やるせない思いを抱えていた12歳の少女メアリーは、家の近くのトチノキが立ち並ぶ坂道で女の人と出会います。彼女はタンジー、本名はアナステイジアと名乗りますが、その服装や言い回しは妙に古風でした。タンジーは、入院しているエマーにだいじょうぶだと伝えてほしいと、メアリーに頼みます。
 母親のスカーレットにそのことを話したところ、メアリーの曾祖母、祖母エマーの母親の名前はタンジーだといいます。タンジーは、エマーが幼い頃に亡くなってしまったというのです。
 スカーレットと共にメアリーは、タンジーに会いますが、彼女はやはりエマーの母親タンジーの幽霊だと言います。娘エマーのことが気がかりで現世に残っているというタンジーは、エマーに会わせて欲しいと頼みますが…。

 かって祖母エマーが幼い頃に亡くなってしまった曾祖母タンジーの幽霊が、娘エマーが死を迎えるにあたって現れるというゴースト・ストーリーです。
 メアリーの祖母エマーは体調を崩して入院していましたが、その死は遠からず来ることが分かっていました。そんな折、メアリーはエマーの母親であり若くして亡くなったタンジーの幽霊と出会うことになります。
 タンジーはエマーに会わなければならないと言い、メアリーとその母スカーレットは、彼女をエマーのもとへ連れていくことになります。

 メインの物語は、現在のメアリーの視点に置かれていますが、合間にタンジー、エマー、スカーレットの人生の物語が挟まれることになります。彼女たちが家族や母親に対してどんな思いを抱いていたのか、そして彼ら自身が親になった際、子どもたちにどんな影響を与えたのか、が描かれていきます。
 愛する夫と子どもを置いて死なねばならなかったタンジー、母を亡くし淋しい思いをしながらも、父と祖母の愛情を受けて育ったエマー、高齢出産であった母に複雑な思いを抱いていたスカーレット…。娘として愛情を受けた当人が、また自分の娘に愛情を注いでいく…という、愛情の連鎖が描かれます。
 それは幼くして母を失ったエマーも例外ではなく、わずかな母との思い出が、彼女の人生に重要な重みを与えていくことになるのです。

 メアリーを含め、四代にわたる女性たちの人生が描かれていき、後半では幽霊であるタンジーを含め、四世代の女性たちが一堂に会することになります。
 そこで語られるのは、死んでも愛情は消えずに引き継がれていくということ。死を前にしたエマーも母親と再会し、それを受け入れることになります。深夜に行われる娘と母親たちの「さよならのドライブ」のシーンは非常に美しく、感動がありますね。
 幽霊が登場しながらも、そこに描かれるのは、死んでしまったことや実現できなかったことに対する諦観や後悔ではありません。賛成題の女性たちが過ごしてきた人生の輝きと家族に対する愛情、メアリーがこれから過ごすであろう人生への希望が描かれていきます。まだ見ぬ子孫を含めて、家族と愛情は受け継がれていく、というポジティブな視線が貫かれており、非常に味わい深い作品となっています。
 また、タンジーとスカーレット、エマーとメアリー、それぞれの祖母と孫の容姿が似ている、というのも、一族のつながりを感じさせて良いですね。