天道虫のむしかご

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午前七時

玄関を出て大きく踏み出す

走らなくちゃ

眠気とか、疲れとか、色々振り切って
わたしは前に前にと足を出す

視界にあなたの姿はない

あるのは、ただただ続く坂道

あの坂の上に、あなたがいますように

そう願って足に力を込める

もともと足も速くないし
もともと朝は苦手だけど

自転車の音が後ろから聞こえただけで
この心臓は小さく跳ねてしまう

長く続くこの坂を
自転車で爽やかに走るあなたの横顔に
足を止めそうになるほど見惚れてしまう

あなたとおなじ電車にのりたいから
あなたといつか笑いあうまでの仲になりたいから

わたしは走るの

初戦は順調


午前七時十分

ホームにたたずむあなたの姿

あなたの横にさりげなく立つの

毎朝こうして同じドアに並ぶけれど
毎朝こうして同じ電車に乗るけれど

話しかけたくてあなたの横顔を覗き込むと

たちまち顔が火照ってしまって

言い出したかった言葉は
熱く溶けて消えてしまうの

ああ

今日もまた、ダメだった

第二戦 痛手を負う


七時十二分

満員電車がやってくる

流れに任せ体を押し込むと

目の前にあなたがいた

あなたはイヤホンをしている

苦しい満員電車でも涼しい顔をしている

つり革を持つその腕の中に体が押し込まれた

想像以上の近さに

心臓が大きな音をたてる

どうしていいかもわからずに

ただただあなたに見惚れてしまう

視線が絡む

思わずうつむく

あなたがおりるまでの十八分間

溶けそうな頭をフル回転して

あなたにかける言葉を探す

おはよう?

遅すぎかな

いい天気だね?

いいや今日はどんより曇りだ

何聴いてるの?

突然すぎる

焦る頭と火照る頬のおかげで

言葉が浮かんでは溶けて消えていく

それでも満員電車は止まらない

次はあなたの降りる駅

真っ赤な顔で
少し涙を溜めた目で

もう一度あなたを見上げる

視線が合う

あなたが少し驚く

そして私の頭をを軽く撫で

久しぶりにみる笑顔と共に

「じゃあね」

とその声で私の鼓膜を震わせた


ぷしゅーと電車のドアが開く

あなたは固まったわたしにもう一度笑って

電車を降りていった


決戦 大敗北


わたしは今日も、1日の始まりの
この戦争に勝てないのだっ

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