　抗がん剤の2回目の入院は約1か月間でした。4人相部屋だったので、他のベッドでは10名以上が交代していきました。

　ベッドの周囲はカーテンで囲まれていますが、繰り返し本人確認で名前と生年月日を告げ、簡単な治療打合せがあるので入院理由はわかります。まあ自分を含めて総じて常識人レベルの人が大半でした。

　大半、というのは中に芸人崩れの実業家さんが入院していました。終日、ほぼしゃべりっぱなしの1週間。大音声で自身の芸人歴の披露から始まって吉本のビッグネームとの交際秘話、どこかのスタジオ収録時の画面らしきものの解説とスマホ画面のご披露とおぼしき会話。本人も吉本芸人の誰かにそっくりらしいのですが、僕はオリジナルを知らないため似ているかどうかが分かりませが。

　彼のご高説は朝の採血時から始まって、夜消灯時の点滴チェックまで看護師、隣の患者さんまでお構いなし。合間に投与薬剤の効果について看護師の説明についての「納得がいく説明の要求」の繰り返し。

　我々入院患者は日ごろの不安や痛みなど解決はもっぱら看護師さん頼み。唯一の心の拠り所ですが、看護師さんたちは「患者さん」には文句が言えない立場。本当に大変な職業だと頭が下がります。

　口内炎が進行し、ゼリーも水も摂れなくなってからベッドではもっぱら松重豊さんのTVドラマ「孤独のグルメ」を見ていました。リアルな店を使ったドラマで松重さんが頬張るご馳走は頭の片隅に残っている「味覚」を大いに刺激してくれました。

　ただ悲しいことに唾液の機能障害で、唾は出ませんでしたが。

大部屋の芸人患者さん