「私は優しくなれないよ、きっと優しくなろうとするほどどこかで何かが鋭くなって一撃で誰かを殺してしまいそうになる。だからもう笑いかけないで私の世界に踏み入ろうとしないで。我侭かもしれないけど言葉なんか要らないからただ傍に居て温もりを下さい。少しの時間だけ独り占めさせて貴方の体温と言葉じゃない声とその手のひらと背中と貴方の体全てを。」

彼女はそう言うと僕に目を合わせにこっと微笑んで抱きしめる。
僕は彼女にされるがままただぼーっと彼女とは関係ないことを考えていた
どれぐらいか時間が経って彼女の寝息が隣で聞こえた、僕はずっと起きていたけれど彼女の存在を忘れていた、きっと僕の意識の中に彼女は居なかった。彼女の隣に居るといつも僕は虚しくなる、僕は彼女に何も求めたくならないし自分が男であることも忘れそうになる。でも彼女には不思議な魅力があった、だから離れられなかった。

共有できているのはきっと時間だけだった
しかし僕は幸せだった。
気持ちはすれ違っていたし彼女が欲しがっていたものがわからなかった。
彼女が居なくなっても平気な自信があった、きっと彼女もそうだった。

ただその時、二人がそこにいたから今があるだけで出会ったことが特に二人に大きな影響を与えたわけでもなかった。


「私が死んでも貴方がすぐに死ぬとは限らないのよね」
「そうだね、まあ絶対とは言い切れないけど」
「もしかして私が死んだら追ってくれるの?」
「いやあ、そこまで君に僕は執着していないな」
「へえ、貴方って冷たいのね」
「君は怖いことを言うね」
「ふふふ、貴方って面白いわ」
「君は何が欲しい」
「温もり」
「優しさも欲しいんじゃない?」
「そんなの人の心配じゃない同情に近いものでしょう」
「捉え方が悲しいな」
「貴方は私に何かを求めているの」
「いや、別に」
「ふうん」

彼女は素っ気無くそう言いながら苦笑すると「私って意地悪かしら」と続ける。僕が「人並みにかな」と笑うと「貴方が笑うと悲しくなるわ」と目を逸らして呟く。

「君にとっての僕は何」
「コーヒー」
「コーヒー?」
「いつも私を夢から醒まさせてくれる、苦いけど暖かくて大事な存在で時々貴方のせいで私は眠れなくなるの」
「勝手に人のせいにして欲しくないな」
「貴方はどう思ってるの」
「考えたことがないからわからないな。しいて言えば・・・・バクかな」
「私って酷いかしら」
「いや、僕を空っぽにしてくれる不思議な存在だよ」

僕が少し恥ずかしくなって照れ笑いをすると彼女は「無表情な貴方が好きなのに」と不機嫌そうに言って僕の頬をつねる、そして泣き出した。

「私、貴方が居なくなっても生きていける自信があるけど寂しくなるわ」
「急に何を言い出すのかと思ったら。何で泣くんだよ」
「貴方が居ない世界を想像すると寂しくなってしまって」
「君は寂しくなっても死んだりしないだろう、兎じゃないんだから」
「きっと、死なないわ」
「まあ僕より先に君が死んでしまうかもしれないけどね」

「貴方って顔に似合わず意地悪なのね」
「ははは」
「私が死んだらどうする」
「普通に生きるしかないだろう、というかまた同じこと聞くのかい」
「私、貴方に依存したくなったの」
「そう言っている間は依存できてないよ」
「・・・・・」
「生きていていれば会えるし、依存がどうとかどうでもいいだろ」

「そうね」と彼女は呟いて何度か瞬きをして目をこすった。
窓を開けると冷たい風が待ち構えていたかのように流れ込んできた
一気に部屋の中の温もりを外に連れて行く。

「じゃあ、また気が向いたら会おう」
「気が向いたらって」
「急いでるから、じゃあ」

彼女の返事を聞かないままドアを閉めて歩き出す。
彼女は追いかけてこなかった、なんだか寂しい気がしたが足早にその場を立ち去った。
すぐに携帯が鳴ったが無視した。
僕には大切な人が居た、彼女にはもう会わないといつの間にか心が決めていた。




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