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尾川永次のブログ

小説、ポエム、旅日記などなど徒然なるままに行きたいと思っています

先日の台風の翌朝。

外を観たらこんなことに。

 

   

 

何とまあ凄い事になってました。

幹は折れるわ左の木は傾いてるわ。

 

怪我人が出なくて良かったです。

 

         903号室

                       尾川永次

   最終章 対峙
 エレベーターから二メートル程手前で弘治が突然倒れた。弘治の

足に香苗がしがみついていたのだ。

 

「私の弘治を返して。寂しかったのよね。辛かったのよね。でも弘治は

 生きているの。だから返して!」
 小百合は香苗の叫びに振り返る事も無く一人で進むと、背を向けた

まま床があるかの様に昇降路の真ん中に浮かんだ。
 そしてエレベーターのドアがゆっくりと閉じた。

 

「ふー、良かったー」
 どうやら小百合は行ってしまったようだ。香苗は弘治を離し仰向けに

なると大きく息を吐き出した。

 

「あれ、どうして香苗がここに居るんだ?」
 我に返った弘治が躰を起こして言った。

 

「実は…」と香苗が言い掛けた時、エレベーターの扉が突然開いた。

 

 さっきと同様、箱は無く、暗い昇降路が再び口を開けていた。
 と、同時に二人の耳にキーンと高周波の様な音が聞えて来た。

 

 二人は声が出せなくなり躰も硬直するとそのまま床に倒れ込んだ。
 さらに廊下から昇降路の中へと風が吹き始め、同時に昇降路から

うめくような声が聞えて来た。

 

 何だか分からずにもがく弘治の横で、終わっていなかった恐怖に

混乱する香苗。
 その香苗の眼に暗い昇降路からエレベーターの淵に掛けられた

小百合の白い右手が映った。
 さらに左手が出て来てその先へと伸ばし、ゆっくりと恐ろしい形相と

化した小百合の顔が昇降路から現れた。

 

 二人は叫びにならないうめき声を上げた。

 

 更に風が強くなる中、女は這いずりながら弘治に近寄ると躰に手を

掛けた。
 すると弘治の躰が徐々に昇降路へと動き出した。

 

 弘治に抗う術は無かった。おぞましい小百合の顔と近付く昇降路。
 弘治はただうめき声を上げるだけだった。

 

(止めて。弘治を連れて行かないで!そうだ!お札が…)
 香苗は神社で頂いたお札が胸ポケットにある事を思い出した。

だが金縛りの躰ではどうする事も出来ない。
(由香里、助けて)
 その時だった。
 弘治に由香里が覆いかぶさった。
「これ以上貴方には何もさせない。彷徨える貴方の魂を救います」
 小百合は更に恐ろしい形相で由香里をにらみつけた。
 由香里は香苗のポケットからお払いを受けた地蔵菩薩のお札を取り

出した。

 

「オン・カカカ・ビサン・マゥェイ・ソワカ。渦巻く邪念を取り払い地蔵菩薩

と共に成仏しなさい!」
 小百合に投げつける様に放たれたお札は風に乗り昇降路に吸い込

まれた。

 

 すると弘治を掴んでいた小百合の手が滑る様に後退を始めた。
 小百合の顔も恐ろしい形相から悲しげな顔になった。
 必死で抵抗する小百合の顔が昇降路に消えるとエレベーターの淵を最後まで掴んでいた両手が消えるまであっと言う間だった。
「キャー!」
 昇降路の底から小百合が発したであろう断末魔の叫び声が聞えた。

 

 やがてエレベーターのドアがゆっくりと閉じると強い風も止んだ。

 

「由香里、来てくれたんだ…」
 恐怖から開放された香苗の眼から大粒の涙が零れた。
「何とか間に合ったわね。もう大丈夫。遅れてごめんね。九回まで

 昇って来るのに時間が掛かっちゃってね」
 笑顔で話し掛けた由香里に声にならなくなった香苗は涙を流し

ながら頭を振った。

 

「今のは何だったんだよ?どうして二人が此処にいるんだ?」
「良かった…」
 そう言うと香苗は状況が把握出来ずいまだに混乱している弘治の

胸に顔を埋めて泣いた。
「お、おい。どうしたんだよほんとに」

 俺はその日でバイトを辞めたが、数日後、前任者がエレベーターの

底で発見された。

 

                   完
 

        903号室 

                       尾川永次

第八章 奈落
「トントン」
 午前二時三十四分。管理人室のドアがノックされた。
 弘治はドアを開け、いつもの様に小百合を迎い入れた。

 

「今日は最後のお願いに来ました」
「え、最後なんですか?」
「ええ。今まで色々と有難う御座いました」
「そうですか。残念ですね。で、最後のお願いは何ですか?」
「よろしければ、私の部屋でワインなど軽く一杯だけお付き合い

 いただけたらと」
「休憩時間だし。最後と言う事なら」
「そう、良かった。では行きましょう」

 

 二人はエレベーターに乗り903号室へと向かった。

 

 部屋に入るとテーブルの上に赤ワインに満たされたワイングラスが

二つ用意されていた。

 

「さ、どうぞ」
 二人は椅子に座りワイングラスを手に取った。
「本当にありがとう」
「じゃ、頂きます」
 弘治は一口で飲み干すとグラスをテーブルに置いた。
「ふー、美味しいワインで…あれ、どうしたんだろう…」
 たった一杯のワインで弘治の視界はぼやけ、やがて泥酔常態の

様になっていた。

 

「それでは行きましょうか」
「はい…」
 弘治は催眠術でも掛けられた様に言われるがまま小百合の後を

着いて行く。

 

 玄関に近寄ると玄関のドアは手も触れずに開き、二人が外に出ると

閉まった。

 

 やがて九階のエレベーターホールに着くとエレベーターのドアが

開いた。
 だがそこにエレベーターのかごは無く、漆黒の闇が遥か一階へと

続く。

 まるで奈落の底の様に…。

 

 小百合が弘治に囁いた。
「さ、二人で乗りましょう」
「はい…」
 まるでエレベーターが二人を招き入れているかの様に、一歩また

一歩と近付いて行く。