「今までほんとにありがとうございました。これからも精一杯頑張ってください!」 彼女の最後のステージでただ、俺はこう思うしかなかった。 

——三ヶ月前—— 

  携帯の通知音がなり、通知内容を見ると、そこには卒業に関するお知らせと表示されていた。お知らせを見た瞬間、今までに感じたことのない喪失感が自分を襲った。胸が苦しくなり、嗚咽をもらし、息が荒くなり、ただ落ち着くのに必死だった。

自分の目の前から光が消えていき、今まで支えていた大きな心の柱が折れるような、それほどに自分にとって彼女は大切であり、心を支えてくれる大きな存在だと、改めて気付いた。 

「暁人《あきと》ー、ご飯だよー。早く降りてきなさーい。」母親が、夕ご飯を作り終え、自分を呼んでいた。いつの間にか眠っていたらしい。「無理もない、疲れ過ぎたんだ、あんな感情になったのは珍しいことだから、、、」と、自分の心の中で納得し、階段を降りた。 

  ご飯を食べようと箸を持ち、その時感じた。食欲がなく、ただ彼女のことしか考えられていないということを。あの子はどんなものを食べているのだろうとか、あの子の家の食卓では何を話しているのだろうとか、今まであまり考えてなかったことばかりが、私の頭の中でグルグル回っていた。

  箸を進めようにも進めることは出来ず、時間だけが自分の気持ちを置いて行くように経過していった。「どうしたの?そんなに暗い顔して。ちゃんとご飯食べてよ。」と母親に言われた時、自分の気持ちが顔に出ていることに気がついた。 

  そんなこんなでご飯を食べ終わり、自分の部屋に戻り、彼女の動画を見漁ってしまった。 画面の中でも十分良いからとにかく彼女の笑顔、話、声、歌、踊りその全てを頭に焼きつけるように、周りの音も気にせず彼女のことだけを見ていた。流れるように時間が過ぎていき、1時間、2時間が経っていた。 時間は経ち、彼女のブログが更新された。そこには、彼女が卒業する理由と、卒業する決心をしたこと、卒業した後のことが彼女らしい文面で書かれていた。 

 「アイドルとしての活動が出来なくなっていくのが辛く、苦しく、苛立ちそんな時に、大好きな目標にしていた先輩の新たなスタートした姿を見て、感化され勇気づけられた。一旦私からは離れてほしい。だけど、この最高のグループからは離れないで応援し続けてほしい。卒業するその日まで頑張ります!!です!!」と、その文面は真面目であり、明るく、癒す存在である彼女がしっかり大人になって大きな決断をしたんだとそれだけを思うだけのブログだった。 彼女の大人な場面は表に出ることは珍しく、ただただ無邪気で純粋で陰の努力家である人が大人になろうと努力した結果だと身に染みて感じた、感じてしまった。 

 ——5日後—— 

  彼女達の10周年を記念するライブをやった。 卒業発表をしたあとでも、彼女は楽しそうでライブの最初から最後まで笑いが絶えなかった。彼女の笑い声はホントに心の底から笑っているようで、その場が楽しそうな幸せな空間になっていることが見ている側にも充分に分かるような無邪気な子ども達の会話みたいで、とにかく楽しかった。 ライブは終わって、ただ余韻に浸ることしか頭に無く、楽しさと喜びと寂しさが波のように交互に押したり、引いたり心を揺さぶりあっていた。この気持ちをどこに向けることも無くただ自分の心の奥に閉じこめた。  

  時が経てば経つほど、彼女への想いは大きくなり、彼女のことがアイドルとして好きだから応援し続けていたが、ある日から一人の女性として彼女のことが好きになってしまった。  

  人のことを想い続ければ、絶望は必ず希望となる。たとえ、途中の道が地獄であっても、人を信じれば必ず光は自分の味方をしてくれる。  

「人は人を支え、人は人に支えられる」 

このことは絶対に忘れてはならない。