▼横浜関内駅近くの吉田町で開催された「びいどろ会展」に出品した。今年で55回目の長い歴史を持つ美術愛好家の展覧会。散々迷ったあげく、今年の作品のテーマを「Beautiful Harmony」にした。これは外務省から海外向けに発表された令和の英訳である。訳し方がなかなか良いなと思い、時代の始まりになる展覧会に、この言葉を使うことにした。
▼今回の作品は、オルゴール付きステンドグラスの箱が1点、写真が2点の計3点。ステンドグラスの出品は3年ぶりである。 創作への思いは次のようなもの。
▼「Beautiful HarmonyⅠ Pandora 希望の箱」
平成から令和への時代の節目にあたり、自分の来し方を振り返ってみた。平成の時代には天災・人災など、社会的にも自分自身についても、いろいろな災いがふりかかった。その渦中にいる時には、ただ必死に泳いできただけ。それが今となって少し冷静に振り返ると、見えてくるものがある。
▼ステンドグラスの箱の中には、Pandoraが箱を開けたときにいっせいに飛び出したと言われる「災い・痛み・悪しきもの・・・」を置いた。これを粗く、あるいは細かく、鋭く砕いたガラスの破片で表現。中ほどに置いた2つの貝殻のうち、一方は悪しきものがほとばしる様を、これが穏やかな生活を意味するもう一方の貝に鋭く突き刺さる、強い力で割れていく様を示した。
▼災いが飛び出した後に残るのが希望。これがHopeと書かれたガラスのピース。この文字は砕いたガラスを高温で処理してガラスのピースに焼付けて作った。熱をかけると角が鋭かったガラスの破片は丸くなり、穏やかな表情になってくる。
▼実は、災いのピースも希望のピースも同じガラスから作っている。同じように乳鉢の中で砕いたガラスの破片。希望のピースは熱が施されたので、このように角が丸くなった。自分が経験してきた「災い、悪しきもの」も「希望、良きもの」も、元はと言えば同じものなのだ。考え方やモノの見方により、自分にとっての意味が変わるのではないか。こんな思いが込められている。実際、自分にとって大変な状況で荒波にもまれていると感じていたことでも、それを乗り越えてきた今では、このことが大きな経験、財産になっている。オルゴールは、宮崎駿の「天空の城ラピュタ」
▼「Beautiful HarmonyⅡ 時を忘れて」
ふるさとの海岸である。西側に海岸線を持つこの地域は、夕日がきれいだ。入院中の父を見舞った夏の日、「手術後やっと小康状態になったが、完全に乗り越えたわけではなく、退院して自宅にに戻れるわけでもない。この先どうしたもんかな~」と悩みつつ、夕日を眺めながら撮った1枚。展覧会出品にあたりこの海岸を再び訪れて、海岸で貝殻や海藻を作品用に採取した。
▼「Beautiful HarmonyⅢ C’est la vie これが人生」
追悼の式の終わった昨年の夏、肩の荷を下ろそうとフランスを旅した。楽しみは2つ。パリの街を歩くことと、私たちにとって大切な意味のある夫婦に会うこと。この2人に会うためにパリから特急で1時間、さらに車で1時間半かけて、フランス北部の田舎の村を訪ねた。
▼昼食後の散歩、周りはどこまでも平らで地平線まで見える広大な平原。一面で栽培されているのはなんという作物だろうか、フランスという国が肥沃な大地を持つことが良くわかる。しかし良いことばかりではない。ワインにチーズ、楽しく食事をした後、一見幸せに見える中で、実は心の奥に抱える不安な気持ちをぽつんと語った。
”C’est la vie (セラビ)” 「これが人生」
喜びだけでなく、自分にふりかかった災いも含めて、すべてを受けて暮らしている彼らの思い。そのようななものが伝わってきて、心を打った。
▼そう、彼らは彼らなりに、私たちは私たちなりに、それぞれの希望をもって生きている。
私の箱に残ったものは、Hope。。。