この腕の中で(白馬×快斗)

「100万ドルの五稜星」プチパラレル
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『黒羽くんですか。僕です。中森さんはいま眠っています』
 
 
───この声。白馬じゃねえか!!
 
重傷を負い入院中の中森警部に付添っている青子に電話した俺は、怪盗の姿で滑空しながら、手にしたスマホを落としそうになった。
 
『なんでオマエがいんだよ!!』
 
 
 
 
黒羽の焦った声を聞き、僕は小さく噴き出した。
中森さんは疲れたのだろう、中森警部のベッドにもたれかかり、本当にうたた寝している。
 
「驚かせてすまない。中森さんのスマホはサイレントモードでしたが、 “バ快斗” の表示が出ていたので取らせてもらいました」
 
『テメー、家族以外は面会謝絶だぞ!勝手に病室に入り込みやがって』
 
「病室を覗いたら中森さんが伏せたベッドからずり落ちそうになっていたのでね。失敬して入らせてもらった。もう出るよ。中森さんの寝顔を君のいないところであまり長く拝見するのも申し訳ないし──」
 
ブチッと電話はそこで切れた。
 
僕はひとり苦笑いをしながら中森さんのスマホをテーブルに戻し、穏やかな寝息を立ている中森親子の様子を振り向いた。
 
中森警部は危機を脱したのだ。よかった。
 
僕は音を立てないよう、そうっと扉を開け、廊下に出た。
 
 
 
さぞ心配しただろう…。
 
中森警部が被疑者を庇って銃弾を受けたその場に、怪盗キッドの姿もあったそうだ。
 
雨の中、狙撃犯がいるビルの屋上へ五稜郭タワーから飛び降りた白い姿の怪盗が真っすぐに飛んてゆくのを、警察関係者が目撃している。
眼の前で中森警部が生死に関わる重症を負った。
その時 “彼” がどれほどショックを受けたかは想像に難くない。
 
 
 
病院を出たところで、黒いキャップを被った黒羽が正面に立っているのを見つけた。
 
こっちを睨んで口を一文字に結んでいる。
 
怒らせてしまったか。
 
それにしても───
 
「びっくりしました。思ったより近くにいたんですね」
 
「テメー、なんでここにいんだよ!」
 
「函館の警察関係者に知人がいるんですよ。その方が僕が怪盗キッドを追っていることを知っていて、今回の件を知らせてくれたんです。まあ、東西の高校生探偵揃い踏みで僕の出番はないだろうと思ったんですが。しかし来る途中で中森警部重傷の報を受けたので、真っすぐこの病院へ来たわけです。これで説明オーケーですか?」
 
「フザケンナ」
 
黒羽の瞳が揺れている。
 
ああ。
そうだとも。
 
「………」
 
 
「わかりました。正直に言いましょう。僕がここへ来た本当の理由は───」
 
 
君です。
 
そう言葉を継ぐ前に、僕たちはどちらともなく駆け寄っていた。
 
黒羽自身、ここまで自分が怯えていたことに気付いてなかったのではないか。
黒羽の背を抱きしめながら、僕はその冷えた躰に胸を衝かれていた。
 
逢えて良かった。
 
この腕を離せば、きっと君は直ぐさまいつもの君に戻って見せるだろう。
 
だからもう少し。もう少しだけ、君を温めさせてくれ。
この腕の中で。
 
 
 
 
 
20240716
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