カブール弾痕


その後二回の検問を通り抜けて僕らを乗せた車はカブール郊外に入った。


車は市街地にある病院へ向かった。後部座席で横たわる、おじいさんの為に。

病院に着くとまた全員が車から降りておじいさんを担架で中に運ぶ。付き添いの青年もとても嬉しそうだ。彼はバーミヤンからカブールに着くまでずっとおじいさんの為に点滴の袋を高く持ち上げつづけていたのだ。お孫さんだろうか?おつかれさま。

         

と、


病院の前に停まった別の車から降りてきた女の人が,玄関前に立つ包帯だらけの男をみつけるなり、全身を覆うブルカを顔の位置まで捲り上げて号泣しながら男に抱きつき、その顔中にキスの雨を降らせていた。見たところ若い夫婦のようだ。旦那さんが何かで怪我をしてカブールの病院に入院しており、はるばるどこか遠くから見舞いに来たというところだろうか?

イスラム原理主義では、女性が外で素顔を晒すことを強く禁じているが、この時は、誰もとがめるような顔をしている者はいなかった。紙の上のルールと肉体を伴った現実は時として違うものなのだ。誰かに迷惑をかけている訳ではないのだから。

彼女は僕らの車がカブール中心部に向けて出発しても、まだ素顔を晒して泣きつづけていた。


前回泊まったホテルの前で車を降りて猛禽ドライバーに礼をいうと彼は初めて僕に笑顔をみせた。体に似合わず屈託の無い可愛らしい笑顔だった。

ホテルの玄関をくぐる前に寄った商店で缶入りペプシを二缶買う。ビールがないのでペプシで疲れを癒すのだ。


明日はカブールから南東に約100キロの地点にあるガズニに向けて出発の予定。

ふと、ガズニにあるアンティークマーケットが穴場だと、何処かで誰かから聞いたのを思い出した。インシャラー。