猛禽類の眼で前方を見渡すドライバーは、その逞しい腕でハンドルを慎重に操っている。


車は地面にポッカリと口を開ける穴を乗り越えて進まなければならず、少しの操作ミスが簡単にタイヤのパンクに繋がるからだ。

僕はこの猛禽類ドライバーの丁寧な運転に感心していたのだけれど、それでも頻繁にタイヤはその内圧を弱めてホイールを地面に食い込ませた。

この悪路に、この暑さ。アフガンに到着する前にインドのデリーを経由してきたが、その時体験した47℃の外気温に近いものがある・・があちらは大都会でこちらは灼熱の荒野。ここは、気温は一緒でも、端から端まで世界をひっくり返したように違うのだ。(そりゃ、当たり前か)

額から流れていた汗は顔全体を覆い、もはや一筋の流れにならず吹き出た場所から滲み広がるだけだった。眼球にまで汗の膜が張ったのは初めてだった。拭いても拭いても滲んでくる。




ドドドドドドド・・・・・・。


地響きが聞こえ、広漠とした大地の隆起の向こうから十数頭のラクダの群れが現れた。


放牧なのか、野生なのか?群れのまわりに人の姿は見えない。


乗客は座席の狭さと暑さに耐えるだけであまり喋らない。ラクダをチラリと横目で見ても騒がないところを見ると珍しいことではないようだ。


車から十メートルの場所をラクダの群れが走り抜ける。


僕はとってはあまりにも珍しい出来事だ。数十秒間ジッとラクダの群れを見つめていた。


本当に長い睫毛を揺らしてこちらに「何だおまえら?」そして逃げるように長い足でカッポカッポと地面を蹴って駆け抜ける。


群れは悪路をトロトロ走る車を追い越して次の大地の隆起を乗り越え視界から消えた。


ドドドドドド・・・..・・...。


ラクダの蹄が地面を蹴る音は、聞こえたり聞こえなくなったりしながら小さくなっていった。

またもや退屈な時間。

お湯になった水をポリタンクから何度も飲む。暑い、ひたすら暑い。

窓から前方の地面に残る、消えかけた車輪のわだちを意味も無く眺めた。

僕らの乗った車は黙ったまま誰かのわだちをなぞって何も考えずに走っていく。

無事に走ればカブールまで三時間。

暇に任せて車内を見渡すとニつ涼しげな眼がある。

猛禽ドライバーの顔に疲れは無い。