「シェムリアップに向かう道が世界一の悪路だ。」

海外旅行中によく耳にしたこの決まり文句は、タイとの国境
からカンボディアの目玉、アンコールワットと共に在る街、
シェムリアップへと続く道を指して使われていたのだと思う。

私はここにペシャワールからカブールの道を世界一の悪路に
推薦しておく。


出されたお茶を飲み干してアフガニスタン側の入国管理事務所
を出た。予想に反して歓迎の内に手続きが終わり、晴れてアフ
ガニスタン入国となったのだ。

無事に国境を通過できたアレンと私はホッと胸をなで下ろした。

00年当時のアフガニスタンには厳しい規制があり、カメラや、
音楽テープの所持は一般には認められておらず、外国人がそれら
を持ち込むことも許されていなかった。

もし見つかって「没収!」といわれても逆らえないだろう。
「没収!」ならまだしも「逮捕!」と言われても逆らう事は
できないだろう。当時はそんな有無を言わさぬ厳しい雰囲気が
プンプンしていたのだ。

ジャーナリストヴィザを取得しているとはいえアレンのカバン
の中には数種類のカメラ、レンズたくさん、フィルム山盛り。
彼は、この国のロシア様式の建造物の写真を撮りにきたのだ。
カバンにはカメラマンの商売道具がぎっしりと詰まっている。

ツーリストヴィザの私のカバンには、望遠レンズつきの一眼レフ
と「写るんです」。旅行用に編集したテクノの音楽テープや、
CDが数点入っていたので没収を恐れていたのだ。
当然「逮捕!」が一番怖かった。

ペルシャ語が堪能なドイツ人デッタフと係官が数分雑談を交わし、
荷物に手を触れる事無く手続きが終わった。
デッタフが国連で働く友人を訪ねてカブールへ向かうというのも
係官に好印象を与えたようだ。デッタフさまさまである。


私達はタクシーでカブールを目指した。運転手の髭もじゃの男は
「日が暮れるまでには着く。」と言っているらしい。デッタフが
通訳してくれる。八時間かかる計算だ。距離は約百五十キロほど
なのだが???

タクシーは発進して一キロも進まないうちに徐行運転をしだした。
地肌が剥き出しになった道路に直径三メートル深さ一メートル程
の穴がいくつも連なって現れたせいだ。細かく避けつつゆっくりと
進む。時折直径五メートルの大物に出くわすと、タクシーはゆっく
りと穴の底に降りてまたゆっくりと這い出た・・・。
八時間掛かるわけだ。
私達は内戦の爪あとを舐めるように追体験しながらカブールへと
続く道を進んだ。