※この記事は以前投稿した記事の再構成版となります。また、記事があまりに長いとのご指摘を受けたため分割してお届けします。

 

2023年6月11日、惜しまれつつも運転を終了したJR東日本盛岡支社の観光列車「SL銀河」。

運転終了の要因として「旅客車(キハ141系)の老朽化」が挙げられていました。

しかし、旅客車であるキハ141系に関しては「老朽化」と大きく触れられているものの、機関車側(C58 239)には何も触れられていません。

このままキハ141系は廃車となるものと思われますが、機関車..つまりC58 239は今後どうなるのでしょうか。

今回はそんなC58 239がどうなるのか、よくSNSで見かけたC58 239の今後に関する2つの意見から、筆者の意見を述べていきます。

 

(釜石線を走るC58 239+キハ141系「SL銀河」。東北の復興を後押しすべく2014年に運転が始まった。画像はWikipediaより)
 

 

 

  1.新潟支社への転属(SLばんえつ物語への転用)

この意見は「人気の高いSLばんえつ物語には予備機が居ないので、新潟支社に転属させることでC57 180に何かあってもC58 239が代わりに牽引することで、SLばんえつ物語の運転を安定的なものにする」といった趣旨から生まれたものとみられる意見です。Twitterで「C58 239 今後」と検索してみると、少なくともSL銀河運転終了間近の2023年6月時点ではこの考えを持った人がかなりいます。

結論から述べるとこの意見は「現実性と非現実性が半々だ」と思います。

確かに、C57 180は2018年7月に炭水車の台車に不具合が見つかった後、2019年7月まで運転を取りやめるといったことがありました。SLばんえつ物語が1年という長い期間にわたって運休することになったのはこれが初めてでしたので、記憶に残っている方も多いのではないでしょうか。また、2020年8月にも同様の不具合を起こしています(こちらは2週間程度で復帰)。

 

(新潟支社沿線住民の努力によって1999年から運転が始まったSLばんえつ物語。C57 180に関しては先ほど炭水車絡みの話はしたとはいえ、1日で往復222kmを走り抜ける運用を毎週末にこなしても最近は故障が少ないです。 画像は2023年8月に筆者撮影。)

 

そういった意味では確かにC58 239を新潟に転属させるのはまっとうな意見かもしれません。何よりC58 239は現在は状態が良さそうで、筆者の調べた限りではこの10年間不具合によってSL銀河を運休にしたことは一度もありませんでした。

ただ、これには2つの問題点があると筆者は考えます。

1つ目に、パワーの問題。C57形の定格出力と最大出力がそれぞれ1040馬力と1280馬力であるのに対しC58形の定格出力と最大出力はそれぞれ880馬力と1097馬力です。
C57形の定格出力は1000馬力を超えていますが、C58形は880馬力であり最大出力でようやく1000馬力を超えます。

磐越西線には途中の山都~喜多方に慶徳峠という峠がありますが、これは11‰の峠で、ばんえつ物語の運行区間である新津~会津若松における最急勾配です。C58 239が釜石線で越えてきたのは宮守の25‰やキハ141系との協調運転で越える上り列車の仙人峠40‰など、鉄道業界においては難所というレベル付けがされるであろうものですね。そう思うと11‰では、「C58 239ならこの勾配は行けるのでは?」と思うかもしれません。

しかしよく考えてみましょう。C58 239がこれまで牽引してきたのはキハ141系4両編成。これに対してSLばんえつ物語の客車は7両編成です。

 

11‰の勾配を4両で越えるのは余裕でしょうが、7両となるとC58形には少しきついのでは?と思います。また、12系客車には当然動力補助の機能なんてあるわけがありません。キハ141系には動力機構が付いているので、他の客車と比べると1両辺りの重量は12系と違うかもしれませんが、それでも少し疑問が残ります。

 

 


一方で、パワー面の問題を払拭するかもしれない話がC58形にはあります。

 

現在京都鉄道博物館の扇形車庫にて静態保存されている、C58形の1号機。

この機関車は1979年からボイラー不調で退く1984年まで、SLやまぐち号の予備機として活躍していました。

(京都鉄道博物館にて静態保存されているC58 1。ボイラーの不調によって1984年に動態保存を断念。その役割はC56 160に引き継がれたのでした。画像は2022年3月に筆者が撮影。)

 

SLやまぐち号が走る山口線には、仁保駅から篠目駅の間に「田代峠」という峠という25‰の勾配があります。実は、当時C58 1はこの区間で12系5両を単機で牽引していたのです。

 

さらに、現在秩父鉄道で活躍しているC58 363は1990年に水郡線の水戸-常陸大子にて「SL奥久慈号」という列車を牽引しました。この区間には一部でわずかながら最大16‰の上り勾配の区間が存在しますが、そんな区間でなんと12系(14系)を6両牽引しているのです。

また、現在上越線で運行されている「SLぐんまみなかみ」の前身にあたる「SL奥利根」の代走で12系5両を牽引しています。上越線には下り線に平均して10‰ほどの勾配がありますが、その中で12系5両を難なく牽引していました。

 

このためC58 239でも磐越西線での12系7両の牽引は可能かもしれません。


一方で11‰を単機でかつ12系7両で越えようものなら当然パワー負荷も大きくかかるでしょうし、そういった無理をさせればC58 239の状態は今よりも悪くなっていくかもしれません。



2つ目に新潟支社の問題。コロナから回復してきたとはいえ、果たして今の新潟支社に蒸気機関車2機を維持する体力があるのか気になります。何より、これまでC58 239を運転したことがある人は新潟支社にいるのでしょうか。

 

以上の問題から、C58 239の新潟転属は無いと筆者は考えます。

 

ただし転属や7両での牽引が無理があるだろうというだけで、出張運転で新潟に来る可能性は十分にあると思います。

 

  ​2.高崎支社への転属

 これは1の「新潟支社への転属」の次によく見られる意見です。恐らく「JR東日本のSL動態保存エキスパートである高崎支社ならなんとかできるだろう」みたいな趣旨から生まれたのでしょう。


これに関しては「ほぼ無い」と思っています。

 

確かに高崎支社と言えばD51 498とC61 20という、大型の蒸気機関車が二機所属している、日本の蒸気機関車の動態保存の中でも名門に位置するところでしょう。

何より、JR東日本発足当初からD51 498のメンテナンスを行ってきて、今年で35年が経ちます。

 

(上越線を走行中のD51 498。JR東日本発足後、1988年に「地域密着」の観点から復活。画像は2023年4月に筆者撮影。)


(こちらは上越線にて走行するC61 20。2011年、D51 498の予備機確保や他地区での出張運転と高崎地区での運転の両立のため復活。画像は2023年10月に筆者撮影。)

 

ただ、この意見の問題点はキャパシティに関して不安があること。D51とC61が所属するぐんま車両センター高崎支所(以下高崎と記載)のSL検修庫は3つあるので、C58 239が転属することも可能と言えば可能なのですが...

 

問題は、高崎支社が秩父鉄道のC58 363の整備も受け持っていることです。
実は、たいていの場合C58 363は秩父鉄道での「SLパレオエクスプレス」のシーズンが終了した後、高崎にて中間検査を行います。

 

この際、3つある高崎の検修庫のうち2つはすでにD51とC61が入っており、残っているのは1つ。

ここでC58 363は中間検査を受けますが、仮にC58 239が転属してここが埋まってしまうと、C58 363は検査を受けることができなくなってしまいます。


ただ、C58 239の新しい定期列車が生まれるにはもうしばらく時間がかかるでしょうし、今後D51もしくはC61が大宮での大規模な検査に入って予備機が無いとなれば、高崎での活躍もあり得るでしょう。
 

前述のとおり、C58 239の同型機であるC58 363は水郡線にて「SL奥久慈号」として運転されたことがあり、上越線も「SLぐんまみなかみ」の前身にあたる「SL奥利根号」として走行したこともあります。この際12系(14系)客車5~6両を難なく牽引していますので、パワー面ではばんえつ物語より不安は無いと思われます。

 

  ​参考文献

 

C58 363

 

 

SL奥久慈号 C58 363