カウンター越しに、一人の客がため息をついた。

 

「キッチンが低すぎてさ、料理するたびに腰が悲鳴を上げるんだよ。

おまけに目から食材までが遠くて、全然均等に切れない。

まあ、その代わり玉ねぎが目に沁みないけど。」

 

マスターはグラスを磨きながら、小さく笑った。

 

「それって、玉ねぎが泣かせる前に、お前の腰が先に泣いてるってことだな。」

 

客は苦笑しながら首を振る。

 

「笑い事じゃないって。本気で腰がやられそうなんだよ。」

 

マスターはウイスキーを一口飲み、ぽつりとつぶやいた。

 

「キッチンが低いのは不便だけど、遠い分だけ痛い目を見ずに済む。

人生も、距離を取ることで救われることがあるんじゃないか?」

 

静かにグラスを傾ける常連たち。ふと、その中の一人が口を開いた。

 

「つり革って、顔の横に来るんだよ。満員電車じゃぺちぺち当たって邪魔でさ。」

 

マスターはグラスを磨きながら笑った。

 

「顔に当たるつり革は、選ばれし者の特権だな。」

 

客が怪訝そうに聞き返す。

 

「特権?ただの邪魔物でしょ?」

 

マスターはグラスを置き、首を傾げながら答えた。

 

「満員電車で顔の横に空気があるのは普通の身長じゃ無理だ。

酸素たっぷり吸えるのに、つり革くらいで文句とは贅沢だよ。」

 

客は苦笑いしながら一言。

 

「贅沢じゃなくて、災難なんだけど。」

 

マスターはウイスキーを一口飲み、ボソッとつぶやく。

 

「まあ、特権も災難も、紙一重だ。」

 

バーのカウンター越しに、いつもの顔ぶれがそろう時間。

ふと、一人の客が愚痴をこぼした。

 

「職場の机と椅子、サイズが合わなくてさ。まるで小学校の時みたいなんだよ。」


客がぼやくと、マスターはグラスを磨きながら口を開いた。

 

「小学校の机と椅子は、あの頃には合ってただろ。でも今合わないってことは、

まだ『自分のサイズ』に成長してないってことじゃないか?」

 

客が一瞬黙ると、マスターはウイスキーを一口飲み、ボソッと付け加えた。


「まあ、大人ってのは合わないもんに座って、

無理に大きくなった気分になるもんさ。」

 

 

カウンター越しに夜が進む。いつもの顔ぶれが揃う中、一人がぼんやりつぶやいた。

 

「洗面所の鏡に立ってみたんだよ。そしたら首から上が映らない。

だから腰を曲げて映そうとしたら、今度は腰が痛くてさ。

結局、洗面所で鏡を見るだけで一仕事だよ。」

 

マスターはグラスを磨きながら、ふっと笑った。

 

「それはいい運動だな。鏡を見るたびに筋トレしてると思えば悪くない。」

 

客は苦笑しながら首を振った。

 

「筋トレするつもりで鏡を見てるんじゃないんだよ。」

 

マスターは肩をすくめてウイスキーを一口飲み、ボソッとつぶやいた。

 

「そうか。でも、鏡に映る顔より、

そこに映らない努力の方が大事かもしれないな。」

 

2013年 日本赤十字社の献血促進ポスター
作:安藤真理さん。

 

 

このキャッチコピーを見るたびに

 

日本語話者でよかったと何度も思う。

 

あえて漢字を使わないことにより、優しさを表現。

 

命とは、血液の循環であり、心臓の拍動であることを再認識させてくれます。

 

どのような印象を受けますか?

 

あなたの胸を打った広告があればぜひ教えてくださいおねがい