カウンター越しに、一人の客がため息をついた。
「キッチンが低すぎてさ、料理するたびに腰が悲鳴を上げるんだよ。
おまけに目から食材までが遠くて、全然均等に切れない。
まあ、その代わり玉ねぎが目に沁みないけど。」
マスターはグラスを磨きながら、小さく笑った。
「それって、玉ねぎが泣かせる前に、お前の腰が先に泣いてるってことだな。」
客は苦笑しながら首を振る。
「笑い事じゃないって。本気で腰がやられそうなんだよ。」
マスターはウイスキーを一口飲み、ぽつりとつぶやいた。
「キッチンが低いのは不便だけど、遠い分だけ痛い目を見ずに済む。
人生も、距離を取ることで救われることがあるんじゃないか?」




