1日目

妄想で旅行気分を味わおうと思う。

断じて現実逃避ではない。


今日はとある森に来ている。

クリスタルが溢れる森なんだそう。

歩いていると至る所にクリスタルがあるのが見える。

色も形も違っていて面白い。

透き通るのに青、赤、黄、紫、白、他にもたくさん。

初めてクリスタルを見るけれど、いろんなのがあるのね。

近くに寄って見てみると、なんとクリスタルが発光していた。

夜になったらきっとさらに綺麗なのだろう。

日が暮れる頃にもう一度来よう。


お腹が空いたのでご飯を食べようと思う。

驚いたのだが、ここではクリスタルを食べる風習があるらしい。

もちろん“食用”のクリスタルなので、普通のクリスタルは食べないけれど。

クリスタルを砕いて振りかけたハンバーグは美味しかった。

甘いような瑞々しいような弾けるような味と食感。

クリスタルって美味しいんだね。


食後の散歩にクリスタル花畑に行ってみた。

クリスタルが花の形をしている。

見たことのある花や知らない花が咲き誇る。

食用のクリスタルはここで採れるのだとか。

いちご狩りと同じようなクリスタル狩りがあるみたいなので参加してみる。

ポキッと折った花を口に入れると広がる甘さ。

お土産に持って帰りたい。


そろそろ日が暮れる。

屋台が立ち並ぶ。

やはり夜はクリスタルを見るのにいいのだろう。

賑わいを見せている。

クリスタルがトッピングされた焼きそばを買って森の奥へ進む。

クリスタル狩りで知ったのだが、クリスタルの花や色によって味が変わる。

辛味のあるクリスタルがアクセントになって、ソースと麺と絡めれば箸が止まらなくなる。

喧騒の遠のいた森深くは日があまり入らず、しかし発光するクリスタルが道を照らしてくれる。

完全に日が落ちたのだろう。

薄暗かった森は濃い闇に。

陽光は淡く光る色たちに。

しじまにクリスタルが浮かぶ。

光る。光る。色とりどりに。

時間を忘れて立ち尽くす。

ようやく我に帰ったのは辺りが明るくなり始めてから。

どうやら一晩中そこにいたらしい。

瞬きをして踵を返す。

森を抜けるとおじいさんが立っていた。

おじいさん曰く、心が囚われて帰ってこなくなる人がたまにいるらしい。

帰ってくるのを待ち、日が昇ってからも帰ってこない人は迎えに行く。

森の管理人をしているおじいさんのお仕事なのだそうだ。

私も危なかったと言っていたので、観光名所なのに危険性があるなんて……と呟いたら、おじいさんが含み笑いをする。

「お嬢さん、クリスタルの森がなんて呼ばれているか知ってるかい?
















魔性の森さ」