割れる時計…
違和感のある霊感少女。
獣臭をさせた女と、
唸(うな)る犬。
今回は非協力的な神々と眷属(けんぞく)たち…。
澪織ちゃんの、
「私は、呪われているかもしれません」
「私…。いつか…死ぬかも、しれない」
安倍晴明神の、
「情けない。この男は本来、優秀な陰陽師であるのに」
藤原友葵貴(ゆきたか)の、
「では仮に幽霊などが居たといて、
彼らは死んでいて、生きてる人間に干渉するなんて
馬鹿げた話があったとして、貴方はそこから
学ぶことがあるというんですか?!
前世で自分が悪いことをしてしまった報いだから
今世で善行をしろとでも?!」
すれ違いと、香る一筋縄ではいかない深い闇。
不安定な飼い主、金谷美嘉さんと
「…それでも羨ましい…。仲が良くて」
「…何かが争うような大きな音が夜中に
決まってするし!
物は割れるし!家族仲が悪くなるし…
不運が重なるんです!」
「私たちが努力不足だと言いたいのですか?!」
何かにあてられたのか、獰猛になる犬、アネラの
『私は舞と祓(はら)いの為に来た。
神倉(かみくら)に向かうよう言われて。
だが来てみれば、呪いに鬼。神は動かず…
私には時間がないと言うのに…』
『私は誓っている。
絶対になさねばならない。
その為にはこの身がどうなろうと
構わない』
奇妙な関係性。
どこか傍観者となっている神々と、
「待て。神楽。まだだ」
「…神楽、今は辛抱せよ。
これは…必要な事なのじゃ」
「神楽よ。お前に責任が負えるのか?」
謎の言葉を言う神。
「星読みの民。
それから、黒く蠢(うごめ)くモノ。
追いかけないと。助けないと…」
湯船に浸かりながら悶々と考え込んだ。
昼間と打って変わって夕方からぐっと
冷え込んだ体に、湯をたっぷり張った
湯船に浸かれることほど
嬉しいことはない。
最初の頃はこの小笠原家のことだから
檜(ひのき)風呂かと思っていたが、
ユニットバスだったのを知って驚いていた。
今はもう慣れた。
が、広くて綺麗な点は未だに慣れない。
湯船から出て洗面台で着替える。
もうここから木の壁が続いている。
・・・もしやこれは、
それぞれが大変複雑な形を成しているのでは
ないだろうか?
繋がりは首の皮一枚ほどの関連性なのかもしれない。
あの後の澪織ちゃんの話を聞いても、
謎が謎を呼ぶばかりだった。
自分だけでは到底無理だと感じた。
ゲームならばここで様々な人間に話を聞いて、
違和感やキーワードを拾ってから、
キーマンに会いに行くのが
ストーリーを進めていくのがテンプレだ。
・・・しかし
・・・レベル上げは良いのだろうか・・・?
今の自分のレベル上げって、
何をすればいいのだろうか?
とりあえずそれはさておき、
そうと決まればすぐにでも状況把握と整理をし、
明日にでも小舞千さんと話し合いをして、
パワポ資料として
纏(まと)めねばならない!!!
ジャージに着替えて引き戸を開けようと手をかけた。
が、勝手に勢いよくドアが開く。
「佐竹さん!!」
「ひぇええ?!」
目の前に思いきり小舞千さんが現れて、
人生で初めてのタイプの奇声を上げてしまった…。
6:かぐら、紫陽花の花を想う
ルイボスティーの赤茶色が、コップの中で踊る。
ジッと見ると、底の方に茶葉が少しばかり沈んでおり、
ちょっとした湖底を思わせる。
こんな綺麗な湖底などありはしないが、不意にこれが
湖だとか、池のように見える時がある。
今は…どこか寂しい風景と重なる。
「佐竹さん、腕は大丈夫ですか?」
「あ、何とか…。風呂はやはり気を使いますが。
しかし、ついついいつも通り使おうとして
痛んだりします」
居間で小舞千さんが、まだ風呂にも入らず
お茶を淹れてくれた。
一口飲めば、ルイボスティーのまろやかで、
少々甘みのある口当たりと風味が広がる。
やっと一息付けた気がして、ホッと息を吐いた。
「お疲れ様です・・・。すみません、
無理させてしまって。アネラの面倒も…」
小舞千さんがそう自分に申し訳なさそうに
言いながら向かいの席に着いた。
ダイニングテーブルの向かいに座った小舞千さんの
目の下にはくっきりとクマが浮き上がっていた。
「何を言ってるんですか。小舞千さんこそ
昨日から休めて無いでしょう?」
そう言うと彼女は少々ギクリとした表情をして
両頬をおもむろにマッサージしだした。
そうすると、狸顔がますますタヌキ顔を揉んでいる
ように見えて面白い。
恐らく、疲れが顔に出ていると思ったのだろう。
…真面目にやっているから尚面白い。
が、この疲労は本物だ。
“はぁー・・・”
肩から大きなため息を、2人同時にした。
何だかここに来てしばらく2人とも
こんな感じだ。
正直もはや色々なことが起きすぎて訳が
分からない状態だ。
その後聞いた澪織ちゃんの話しでさらに
頭パンパンになった所だ。
それは多分、小舞千さんも一緒だろう。
「あー!!!
こんなんじゃ駄目だ!!」
急に小舞千さんが
両手を思いきりテーブルに叩きつけた。
自分も、腹の中の子龍も
“ビクッ!?”と体を跳ねさせた。
「こ、小舞千さん?」
立ちあがって歩き出す小舞千さんを
目で追いかける。
「やってられませんよ!飲みましょ、佐竹さん!!
お茶で緩和できるか!この疲労!!」
たくっ!!とか、自分でお茶を出して
おきながらブツブツ言いつつ、
小舞千さんは冷蔵庫…
ではなく、
ポットと厚手の濃い茶色の湯飲みを取り出し、
それからサーバー。
信楽焼の焼酎サーバーと、カップ。
しかも、サーバーは木の台付き。
それをドンドンとテーブルに置くと、
謎の辛そうな豆だとか、
漬物だとか、小魚、チーズなどを置きだした。
小舞千さんは椅子に座ると、
ポットからお湯を湯飲みに注ぎ、
それからサーバーの取っ手をひねって
焼酎を注ぎ入れた。
手慣れている…。
「実はね、佐竹さん…。私と金谷さんとで
北鎌倉方面を回ったじゃないですか?
その時の話なんですけど…」
温かい焼酎の入った、冷たい信楽焼のカップを
両手で握りながら、
小舞千さんは自分をタレ目の
大きな瞳でジッと見て
訥々(トツトツ)と話しだしてくれた。
まだちょっとついていけてないが、
自分は彼女の話に耳を傾けた。
■
「すみません、付き合わせてしまって…。
お店、大丈夫ですか?」
金谷美嘉さんは、嬉しそうな反面酷く店を気にかけて
くれていたらしく、申し訳なさそうに頻(しき)り
に聞いてきたそうだ。
そんな彼女を気遣い、小舞千さんは
目的地に行く前に、気分転換に
えびす屋の人力車を利用しようと
提案したそうだ。
人力車の方も凄く気さくな方で、
日に焼けた逞(たくま)しい男性で
きっと喜ぶと思って、
小舞千さんも楽しく過ごそうと努めていたそうだ。
何だか…何でも見目麗しい男性で
片づけようとしている気がするが、
そこには言及しなかった…。
明日の朝日を拝めなくなる。
だが、
俥夫(しゃふ)の男性の背中を、
彼女は時折辛そうに眺めていたそうだ。
彼の話もとても楽しく、
綺麗な景色や有名な寺社仏閣を見て回れたのだが…
どこか影があったそうだ。
人力車のお兄さんに撮ってもらった写真を見ても、
確かにそのような面持ちだ。
それから、まだ昼には早いので鎌倉駅に行き、
2番ホームから横須賀線成田空港行きの電車に
3分ほど揺られて、目的の北鎌倉駅に着き、
また3分ほど歩いてとある寺の前に着いたそうだ。
石の背の低い柱が門として敷地の前に立っており、
そこには「松ヶ岡」と彫られていた。
彼女はその前に立って、
更に寂しそうな顔をしてから苦笑した。
「ごめんなさい。今回鎌倉に来たのは…
ここに立ち寄ってみたかったこともあるんです」
そう言うと、彼女は寺の入り口にある看板を見た。
「こんなところに来ても、
どうにもならないって分かってるけど…。
苦しくて…」
松岡山 東慶総持禅寺
一般的に東慶寺(とうけいじ)と呼ばれている。
寺格 鎌倉尼五山二位
開山 覚山志道尼(北条時宗公夫人)
開基 北条貞時
東慶寺は鎌倉時代の弘安8年(1285)に開創された
臨済宗円覚寺派の寺院だ。
女性から離婚できなかった封建時代、
駆け込めば離縁ができる女人救済の寺として
明治に至るまでの600年間、
縁切りの寺法を引き継いできた寺。
後醍醐天皇皇女が護良親王の菩提を弔うため
五世住職となり、
御所寺、松ヶ岡御所とも呼ばれ、
鎌倉尼五山の第二位に列せられる
格式の高い尼寺になった。
江戸時代初期には豊臣秀頼の息女が
千姫の養女として命を助けられ、東慶寺に入寺。
のちに二十世天秀尼となり、
創建以来の栄華を極めた。
「出雲にて結び鎌倉にてほどき」
「松ヶ岡男を見ると犬が吠え」
そんな句も残されている。
東慶寺は男子禁制の尼寺だったそうだ。
「どうして、ここに来たかったんですか?」
小舞千さんは個人的な話しとは分かっていたが、
ここまで来たら聞かない方が不自然だろうと
尋ねたそうだ。
思い詰めた横顔から彼女はパッと顔を上げて…
そして彼女は眉をハの字にして
「願掛けで…」と呟き、言った。
「旦那と別れるために別居中なんですが、
その後も彼と彼の母親から嫌がらせが度々あって、
脅迫めいた嫌がらせとストーカーまがいの行動が
度々あって、心底疲れていたんです。
早く縁を切りたいと思って…。
結婚生活も本当に酷い有様でしたし…」
旦那さんは気が弱く、母親の
いいなりだったそうだ。
ここぞという時に何度裏切られて、
金谷美嘉さんが独り、
何度孤立無援になったか知れない。
それだけならまだしも、
旦那さんは酒乱であったそうだ。
「弱いのに好きで、飲むと豹変してしまって…。
恐くて、恐くて…。朝になったら記憶が無くて。
もう生活は成り立たなくなっていました」
幸い子供はできなかったそうなので、
その点は恵まれていたとも話していたという。
と、いうのも…彼女の両親との家族仲も
昔から少し歪んでいたそうだ。
「母は地主の家の長女でして、土地は減りつつは
ありますが生活には困らない程度を持って
います。自営業も営んでいるのですが、
そちらはあまり芳しくないようです。
父は町の古い中小企業の社長だったのですが、
どういういきさつかは知らないのですが、
店を畳んで婿養子になったそうです。
2人は何で結婚したんだろう?って思うほど
性格も行動もバラバラだったんです。
よくケンカしてましたが、婿養子なので…。
高圧的な母の父への当たり方を見て…、
父に胸を痛めていました」
幼少期にはこんなことがあったそうだ。
アネラは子犬の頃、
なんと母が勝手に動物病院へ連れていき、
捨てられそうになったことがあるという。
それを“捨てる”と見なすかと言えば
少々違う気がするが、小学生の
金谷美嘉さんにとってはそう感じたのだろう。
学校から帰ってきてアネラがおらず母を責め、
修羅場になり、泣きじゃくって冷戦状態の家に
父が帰ってきてその事を知り、
黙って一緒に動物病院に引き取りに行ってくれた。
母親に対する金谷美嘉さんの気持ちは、
敵に相当する憎悪に近いものを生んでしまったように
感じる。実際、小舞千さんが話を聞いてる間、
彼女が母親のことを話の中で良く言ったことが
一度もない上に、悪態ばかりだったそうだ。
ご両親は元々母親のほうが勝ち気で外交的な性格で、
父親は静かで職人気質な人だったそうだ。
口下手な父親は口が達者な母親に思っている事の
半分も伝えられずに黙っていることが多かった
ように思えたそうだ。
今は少し痴呆が入っていると言われているのだが、
本人は違うと言っているし、
単に年の物忘れか分からない状態なのだとか。
そんな両親を見ていられないのと、
婿を貰えだの、自分の仕事や土地を継げだのといった
こと以外にも様々なことに過干渉な母親と、
見るに忍びない父親から離れたくて
家を出て旦那さんと結婚したのだそうだ。
結婚後は、話した通りだったのだが…。
「別居して一人暮らしをして一年も経たない内に
産婦人科の病気になってしまって、
卵巣を片方取る手術をしなければならなくなって
しまいました。
こんなことが立て続けにあり、
実家にまた舞い戻ることになってしまったんです。
婦人科の病気の後って、
切っておしまいじゃないみたいで…
ホルモン関係なので本当に辛くて…。
普通の生活ができない日々が続きました」
サーフィンもその頃完全に諦め、
引っ越す度に持って歩いていたボードも
売ってしまったそうだ。
彼女の病気は
卵巣嚢腫(らんそうのうしゅ)だったそうだ。
卵巣嚢腫とは、
子宮の両横についている、卵子を生む卵巣にできる
腫瘍の総称を「卵巣腫瘍」と言い、
彼女の場合その腫瘍の中の
「皮様(ひよう)のう腫(奇形腫)」
というものだった。
これは卵巣に毛髪や歯、脂肪などを含んだ
ドロドロした塊が溜まって腫瘍になるもので、
特に20~30代の女性に多く起こり、
閉経後は稀にがん化することがある腫瘍だとか。
不正出血にはじまり、
更年期のようなのぼせた状態や、眩暈、
常に体調も悪く、
特に生理の前後とその日は
怪我をしているところを揉まれるほどの痛みと
それに伴う、発熱時のような倦怠感だったとか。
薬の副作用も酷く、鼻血も頻繁(ひんぱん)に
出たり…とにかく仕事どころか、
人としての生活もままならない状態が続いた。
検査期間中に卵管が捩(ね)じれて
激痛を感じてから意識が無くなり、
救急車で運ばれて
結果を待つまでも無く緊急手術となったが、
今も体調不良が続いている。
幸い、会社は流石に倒れたこともあり、
休職させてくれているそうだ。
しかし、問題は重なる。
「実家に帰ると…歓迎はされたのですが…
アネラが…。
母親は気に喰わないようでして…」
老犬で、思ったように動けないアネラを
かいがいしく世話をする美嘉さんが
気に入らないのか、
動物が嫌いなのか、
“犬は一緒に住めない”
と言われてしまったとか。
「そこから・・・
良く分からないことが
頻繁に起こり始めたんです・・・」
決まって夜だった。
実家の2階に誰もいない時。
とんでもなく大きな音がした。
泥棒でも入って、天井から床に落ちたのかと
思うほどだったという。
だが、そこから部屋中を暴れまわり、
壁という壁に当たりまくる
音がし続けた。
速さ的に、
人間ではありえなかったそうだ。
何かが争うような音だった。
それから、気が狂うほどの獣臭。
父もおらず、母親と2人で震えあがり
奥の座敷で気配を殺してじっとしていた。
すると、
その音は、2階の廊下に転がり出た。
母親が“ヒッ”と、小さく息を飲んだのが分かった。
すると、その音が
ドンッ!ドドドドド・・・ッッ‼
階段を転げ落ち、1つ部屋を挟んだ向こうの廊下。
階段下まで行くと
ダンッ!!ドダダダ!!!
と、そこでも壁にぶち当たりまくり、
轟音と共に玄関の外へ物凄い勢いで
出ていった音がしたそうだ。
そこから、
かなりの頻度でそういう事が起き、
更に部屋の中の物が位置がずれたり、
物が落ちたり、
目の前で大きなちゃぶ台が
勝手に3メートルほどの距離を、すごい勢いで
何かにぶつかったように滑っていった時は、
あの気丈な母親が泣きだしたというから
そうとうなストレスなのだろう。
そして、その時かならず…
アネラが昨夜のように
狂ったように吠え、威嚇し、
何かを追いかけているという。
時には家族に向かって吠えることもあるとか。
金谷美嘉さん自身、寝ているときも
何かの気配を感じて上に乗っかられたりする
経験が何度かあるそうだが、
必ずアネラが走り寄ってきて何かに吠えかかり、
攻撃しているという。
金谷美嘉さんとしてはきっと何かを
追い払ってくれているんだと分かってはいるが、
確かにアネラの年齢で、温厚な性格だというのに…
狼が怒り狂うかのような覇気で何かを追う
アネラは少々薄気味悪いものを感じるのだとか。
母親が仕事の伝手などで、色々な加持祈祷の類、
祓いの類をありとあらゆる人にしてもらったが、
酷くなる一方だとか。
それから…。
金谷美嘉さん自身、
家の決まった個所に人の気配を感じることが
何度かあるそうだ。
気配どころか、人自体を見てしまったという。
勿論、“いるはずのない”人だ。
「凄い形相なんです。
大体廊下にいるんですけど…。
女性だったり、おじいさんだったり…。
多分、2.3人は幽霊がいるんじゃないかと…」
「いつからですか?
初めからそういう現象があったんですか?」
彼女は首を振る。
自分たちが来てからだと母親は言うらしい。
「その人たち、皆口を揃えて言うんです…」
彼女、金谷美嘉さんは花の東慶寺の庭先、
紫陽花や菖蒲が咲き乱れる前で言ったそうだ。
「“消えろ”って・・・」
■
「佐竹さん・・・?」
顔を覆っている自分に、
小舞千さんが声をかけてきた。
気が付かれてはいけない。
恐怖のあまりどうにか
なりそうだったことを!!
何なんだ最後は!!!
普通にホラー話ではないか!!
「そ、それで・・・?
小舞千さんはどういう風に見たんです?」
平常心を装い、そう言う。
口の端がひくつくのを隠すため、
言いつつ酒を飲む。
「はい。家を見てみないと分かりませんが、
恐らく色々な要因が重なっているように感じます。
一応彼女に精神科受診の話もしたのですが・・・」
「え?!」
こちらの専門の人が、
まさか医学を持ち込んでくるとは思わず聞き返すと、
彼女はキョトリとした。
「普通…ですよね?そういう疾患もありますし。
ただでさえ彼女の精神は弱っています」
「あ、は、はい。まあ、そうですが・・・」
小舞千さんは眉間にしわを寄せて、
暖かな湯気が立つコップの中を覗き込み言う。
「私、嫌いなんです。何でもかんでも幽霊だとか、
スピリチュアルだとか…。
その根源が殆ど人間が引き寄せているのに…。
日本は八百万の神々がおられる。
その意味を分かってない人たちが…
今はあまりに多いです。
私たちは“生かされている”んです。
それは、神々だけではないです。
人々によってもです。
だから…ちゃんと…やりたいんです…」
したたか酔っぱらっているせいか、
小舞千さんが饒舌(じょぜつ)だ。
前後のつながりが無いような気もするが、
それでも…何だか分かる気がする。
彼女の話を聞いて、全く全部は分からなかった。
というか、分かるわけがない。
彼女はこれまで一人で戦って来ていたのだから。
だが、自分が実は“目に見えない世界”を
“本当に分かってない”のだ
ということが…知れた気がする。
「すでに金谷さんも精神に異常があるのかと
病院にかかってみていたそうです。
けど、精神科では何も出てこなかったそうです。
となると、やはり正確なことを判断するには…
行ってみないと分かりません。
華絵舞をするに至っては、
ほぼ何も今の所手がかり無しです」
確かに小舞千さんの言うとおりだ。
ここまで聞いて何も浮かんでこない。
と、いうことは…
まだ金谷美嘉さんの華絵舞は何もキーワードが
出ていないという事に…
「ん?そういえば小舞千さん。
生きている人の華絵舞って…どういうことです?」
そう言って漬物を齧(かじ)る。と、
「お前の頭は…キノコの飾りか?神楽よ」
「・・・」
自分の顔の横に、
色白で狐表な醤油顔青年がニヤケ顔で現れた。
青筋が
一気に3つは額と米神に浮かぶのが分かった。
「止めてやってください晴明殿。
まだ始めたばっかりで、一生懸命なだけ
なんですよコイツは。
キノコの頭もたまたまこうなってしまった
みたいで…」
烏天狗が安倍晴明青年神にそう、
やんわりと静止をするためまたもや突然現れた。
「なに・・・」
安倍晴明神は扇を閉じて、
聖人君子のような微笑みで自分に向き直り、
言う。
「何も悪いと言っているわけではない。
…むしろとても似合っているぞ。
お前ほどその頭が似合う男はいない」
「晴明殿!
神楽は前の職場で
この頭を侮辱された傷があるんです!
これ以上は止めてやってください!」
烏天狗。
妙なフォローは逆に悪意になると知れ。
神だろうが
誰から頂いた眷属(けんぞく)だろうが、
関係ない。
無言で烏天狗と安倍晴明神に殴り掛かった。
「やめ!!ヤメロ神楽!!
何しやがるんだ!!俺はお前の為に…!!」
「うるせぇ!消し炭ボンジリがぁ!!」
「何で尻限定なんだよ暗黒キノコが!!
しかも、俺は鳥じゃねぇつってんだろ!!」
テーブルの先の絨毯の上でつかみ合いをしていると、
「私はボンジリより皮が好きじゃぞ。
あれは紅葉おろしや柚子胡椒とポン酢で
和(あ)えるのも、炭火焼きでシンプルに塩でも美味い」
そう言いながら狐少女は日本酒の冷を、
美しい白銀色の錫(すず)のぐい吞みで
一口飲み下した。
「あの…論点がずれてるんですけど…。
佐竹さんも戻ってきて…」
小舞千さんがまるで独り言のように
狐少女やら自分の方にやらの方へ
挙動不審に言っている。
「小舞千!イチゴある?!」
「ありません」
子龍がいつのまにかダイニングの椅子に座り、
小舞千に問いかけるが瞬殺されていた。
項垂れている。
よほどイチゴが美味しかったのだろう。
ちょっとタイミングが悪かったようだ…。
殴り掛かられたと思った安倍晴明神が
居たところには、“安倍晴明”と書かれた
人型の依り代が落ちている。
安倍晴明神本体は、
ダイニング脇に立っていたのだが…。
烏天狗と自分の依り代による幻と取っ組み合いする、
天照大御神様が遣わした烏天狗と、
この世で闇の力で右に出る者がいない
太古の鬼神を宿す生神。
ツマミの話をしながら
美味そうに酒を飲み下し続ける
七五三の少女にしか見えない稲荷、
もしかしたらこの中で一番力が強いかもしれない、
清い神の龍の子が…。
人間世界の甘い果物を貰えず項垂れている…。
安倍晴明神は部屋のカオスを見回し、
細い目を更に細め、口に扇を持ってくると
「・・・くだらない・・・」
と、呟いたのだった・・・。
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【link】
寝子屋木天蓼公式サイト
Kagura鎌倉奇譚【弐ノ怪】第一話
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