◆医師、看護師以外の病院の専門家「メディカルスタッフ」の活躍に期待が高まっています。
◇患者の疑問、気軽に相談
◇検診結果の説明、退院後の生活…技術や知識、活用を
パソコンの画面に子宮から採取した細胞が大きく映っている。色鮮やかに染められた細胞の中に核がくっきりと見える。「あなたの細胞の核の形は正常な核と似ていますね」。そう説明するのは細胞検査士で医学博士の資格をもつ今枝義博さん(46)。藤田保健衛生大学坂文種報徳会病院(名古屋市中川区)臨床検査部で仕事をする臨床検査技師だ。
細胞検査士は、採取した細胞を顕微鏡で見ながら、がん細胞かどうかなどの判断材料を医師に提供する専門家。日本臨床細胞学会が行う認定試験に合格する必要があり、全国に約6500人いる。
病院では通常、医師が検診結果を説明するため、細胞検査士が前面に出て、細胞の写真を見せて解説までしてくれるケースはほとんどない。
坂文種病院では昨年6月から総合健診科をもうけ、さまざまな検診体制を整えた。子宮がん検診では今枝さんのような細胞検査士が詳しく解説するサービスも始めた。名古屋市の検診料金は子宮頸(けい)がんで1700円、子宮体がんで2700円。説明は無料で、受診者の約7割が細胞検査士の解説を希望する。今枝さんは「患者の納得度は高い。子宮がん検診の受診率向上につなげていきたい」と話す。
細胞検査士の存在はがん患者から見ても、有意義だ。乳がん患者で組織する「山梨まんまくらぶ」の若尾直子代表は9年前、乳がんだと医師から言われたが、半信半疑だった。当時を振り返り、「自分自身のがん細胞を見ながら、説明してもらえたら、もっと納得できた」とメディカルスタッフのスキルを患者のためにもっと生かしてほしいと訴える。
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一方、医療ソーシャルワーカーも、とても有用な存在だ。全国に約1万人、病院では「医療相談室」や「地域連携室」などの部署にいる。
「いまの治療を続けても大丈夫?」「治療費は分割払いでもよいの?」「退院後の生活が不安」。こうしたさまざまな相談に応じてくれる。退院後の生活が不安な場合には、生活保護の手続きも手伝う。東京都内のリハビリテーション病院に勤務するソーシャルワーカーの取出涼子さんは「医師や看護師に聞きにくいことがあったら、遠慮せずにソーシャルワーカーに聞いてほしい。すぐに答えられなくても調べたりします」と話す。こんな頼れる存在が1病棟に1人いれば理想的だ。
病気の回復に必要な食事管理には、管理栄養士のアドバイスが欠かせない。しかし、どこにいるかが分からず、相談しにくいのが現状。日立製作所日立総合病院(茨城県日立市)の石川祐一栄養科長(管理栄養士)は「食事改善のことで聞きたいことがあれば気軽に声をかけてほしい」と言い、管理栄養士が病棟を巡回する体制の実現を期待する。
メディカルスタッフの活動を詳しく紹介した「がん闘病とコメディカル」(講談社)を著した医療ジャーナリストの福原麻希さんは「全国の病院で、患者がメディカルスタッフに気軽に相談できるよう人数を増やしてほしい」と呼び掛けている。【小島正美】
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■主なメディカルスタッフと仕事
細胞検査士 がん細胞の発見など
放射線技師 エックス線検査など
管理栄養士 健康・食事指導など
言語聴覚士 飲み込み方や発声訓練など
作業療法士 心身や動作の機能訓練など
理学療法士 障害者の機能回復訓練など
臨床工学技士 医療機器の点検と操作など
医療ソーシャルワーカー 退院支援などさまざまな相談
診療情報管理士 診療情報の点検と管理など
リンパドレナージセラピスト リンパ浮腫の対処など
※病院には十数職種の専門家がいる。昨年秋、13職種のメディカルスタッフが集まり、「チーム医療推進協議会」(北村善明代表)を結成、1月末、病院での人的な充実、診療報酬の引き上げなどを目指してシンポジウムを行った。
2010年2月12日 提供:毎日新聞社