ゼロとムクのゆめだより~愚者のおはなし~
遠い遠いむかし、
空にうかぶお城が、
きらきらと光って見える、
世界でいちばん高い、
風のふく崖っぷちに、
一人の少年が立っていました。
少年の名前は「0(ゼロ)」。
ゼロは、いつもにこにこ、
好奇心がいっぱい。
今日だって、
なんだか胸がドキドキします。
ゼロの、肩から下げた
小さな袋は、いつもからっぽ。
でも、ゼロは気にしません。
「よし、ムク!今日の風は、なんだか
遠い国から、ぼくを呼んでいる声がするぞ!」
ゼロが元気よく言うと、
旅のお供の白い犬、ムクは、
「ワン!」と短く吠えました。
ムクは、ゼロがいつも楽しそうで、
ふらふらと崖のギリギリに立つのを、
ハラハラしながら見守っています。
「そんなに崖のそばに立っちゃだめだよ」と、
小さな声で言っているのかもしれません。
「早く行こう!この道が、どこにつながって
いるのか、見てみたいんだ!」
ゼロは、足元に咲いている、
まっ赤なバラをそっと一輪摘みました。
ゼロは、摘んだバラを、ペタンとした
小さな袋に、そっとさしました。
袋は、まだからっぽのままで、
バラの花だけが、
なんだか誇らしげに顔を出しました。
ムクが「クゥン」と心配そうな
声を出すと、ゼロはニコッと笑いました。
「大丈夫だよ、ムク。僕の袋は、
まだからっぽだから、これから旅の途中で、
たくさんのたのしいことや、わくわくする
おもいでを、どんどんつめていくんだ!」
そして、ゼロは何もためらわず、一歩前へ!
そこは、道なんてない、崖の先です。
ゼロは、ふわりと空中に飛び出しました。
「わあ!」ムクは、慌てて
ゼロの服の裾をくわえようと、
跳び上がりましたが、間に合いません。
けれど、次の瞬間、
ゼロは落ちてはいませんでした。
ゼロの足の下に、キラキラと虹色に光る、
新しい道が生まれていたのです。
「見て、ムク!旅の始まりだ!」
ムクも、嬉しそうに
「ワンワン!」と吠えながら、
そのあとを追いかけます。
空に浮かぶお城を目指して、
「ゼロ」と「ムク」の、
なにもないけれど、なんでもありえる旅が、
今、始まりました。















