一姫と長々と電話で話す。

今回の離婚について、そして父親について。

一姫はもとより、二太郎も気がついてしまった。

一姫のでたらめな恐ろしい言動は、母vs娘 ではなかったということを。

根底にあったのは、父vs娘 の問題であり、その点はまったく解決していない、ということ。

一姫ははっきりとこう言った。
「おとうさんの愛情はいつでもお金かモノでしかない。でも、それがおとうさんなりの表現なんだってわかってる」
悪意のない父の言動に傷つき、傷ついたことを必死に伝えようとするのだけれど、それはまるで共通の言語を持たないものたちのやりとりのようになる。
いつだって、一姫と正面からは向き合わない父親。
さらに、一姫は気づいてしまった。
自分自身でしかこの問題を解決することができないことにも。
父に何かを期待しても、結果は永遠に得られないであろうことに。

わたしはとてもずるいのだと思う。
だって、他人だから。
わたしは、「価値観が違いすぎる」という理由で、離れることができる。
そもそもが他人だから、痛くもなんともないのだ。
「ああ、わたしとは考えかたも価値観も違うのね。いいんじゃないの。あなたがいいのならそれで。」
となれるのだ。

でも、一姫も二太郎もカニ男が、自分の唯一無二の父親だということは、天地がひっくり返っても変えられない。
「お金がいちばん」「愛情=お金」
という考えかたが間違っているわけでも、悪いわけでもない。
それを受け入れなければならないわけでもない。
ただ、それが、自分の父の価値観なのだ。
と割り切るには、まだ若すぎるのだろう。

わたし自身がその価値観に浸れたら、ふたりとも幸せだったのかもな。
そんな風にも思う。
そう、わたしがカニ男の価値観に寄っていくことができたら、ね。

調停委員のひとりがわたしに言った。
「あなた、もっと欲深くなりなさいよ」と。それはお金の面でのことだ。
そのとき、
わたしは、欲深くない善良な人間なのかもな、うふふ。
とか思ったのだけど。
よく考えたら、まったく反対だった。
わたしは、お金では満たされることができず、お金で解決できること以外を望む、欲が深い人間なのだ、と。
どこまで、欲深いのだろうと、自分の欲望がおそろしくなってきた。
この欲のせいで、一姫も二太郎も傷つけることになってしまったのだ。

本当にごめん。
でも、どうしてもこのまま死んでいくのはイヤだったんだ。