二太郎試験前。
周囲に影響されて、驚くほど勉強する。
やはり進学校に来る子たちはみんなプライドがない高く、なんとしても落ちこぼれるわけにはいかないとそれぞれ思っているらしい。
午後いっぱい自習室に行く、というので私はある街に行ってみることにした。
姪から一姫が働くと言っていたと聞いていた駅ビルに。
私の住む駅から約1時間。
今までの人生で一度も降りたったことがない、首都圏の大きなターミナル駅。
駅ビルは2つあって、何百軒もの店舗が入っている。
始めはアルバイトとして採用されたみたいだから、その時間にいるとも限らないし。
見つかるわけないのだ。
それに、まだそこで働いているとも限らないし。
だけど、万が一、姿だけでも見られたら。
ニコニコして接客しているとしたら。

一目でいいから。

見るからに怪しく黒ずくめに黒帽子、マスクまでしてだいたいのフロアを2回ずつみてまわった。
一姫の好きそうな雑貨の店は特によく見た。

だけど、やはり、というか、当たり前、というか見つかるわけはなかった。

3時間ほど歩き回って、
「もう帰ろう」
と口に出して改札に向かった。
ものすごくたくさんの人が行き交う駅のコンコースで、このどこかに一姫がいるかも
と思うとなかなか立ち去ることができなかった。
改札を背にしてしばらく立ち続ける。
涙が出てきて止まらなかった。
怪しい、あやしすぎる、でも、どうにもできなかった。
このまま一姫と二度と会うことができないのか?
それでは私はいままで20年近く何をしてきたのか。
私の人生はなんだったのか。
それともそんなにも家族に依存するのが悪いのか。

やっと帰りの電車に乗って、涙をたれ流したまま、処方されたばかりの新しい抗不安薬を飲む。
新しい薬を外出先で飲むのは危険だとわかっていたけど、どんどん自分の中に入っていく思いをなんとかしなければ、帰れなかった。

眠気やふらつきは起こらず、緩やかな効き目があったらしく、家に着いたころにはだいぶ気持ちが落ち着いた。
なんとごはんも作って食べた。
なんだか美味しかった生姜焼き。
こんなときにごはん作って食べるなんて、しかも美味しいと思えるなんて、どんな神経してるんだろう、と自分に呆れた。

今日も生きた。