一姫がベッドを買いに行くから一緒にいって、と言われた。

二太郎の用事で車で出かけていた時に電話がきて、何時に行ける?と聞かれたので、いま家に帰って、車置いていくから。
一緒に行きたくないならお店で待っていて。
と答えると家で待っていた一姫。
意外なことに駅まで並んで歩いた。
しかしながら、会話はすべて私への不満だった。私にとっては理不尽な。
途中までは、落ち着いて話そう、先のことを考えよう、と諭したつもりだった。
でも、ふと、ああまだだ。
と思った。
今はまだだめなのだ。と。

一姫はやっといま、自分の気持ちを話せるようになったのかもしれない。
脳天気かもしれないけど、そう思おうと思った。たとえ、私に対する不満でも、否定でも、鋭く私を睨みつけて、怒鳴りつけて、話もできなかった時より進んでいると思おうと。
だから焦ってはだめだ。
今は聞けばいいんだ。
途中でそう思いなおして、自分の考えを伝えるのはやめることにした。

約50,000円のベッドを買ったあと、一姫の顔をちゃんと見て
「話してくれてありがとう。とっても嬉しかったよ」
と伝えた。

またどこかふらふらするのかと思っていたけど、自分の買い物をしてすぐに帰ってきた一姫。
カニ男と二太郎と並んでテレビを観るともなしに観ていたりした。

なんだか具合があまりよくなかった私は早めにベッドに入った。

朝起きるとダイニングテーブルには一姫の食べ散らかしたお皿。お風呂場には汚れた下着が放置されていた。

昨日、カニ男が一姫に言った。
「金は湧いてくるわけじゃないんだぞ!」

一姫の攻撃は本当はどこに向かっているんだろう。

今は待とう。
ここにいて、待とう。
私は進まなくていい。
後ずさりさえしなければ。
ちゃんとここにいて待っていよう。
色んなこと。
色んな、大切なひと。