警察が来てくれるまでの間、馬乗りになっている私に一姫は汚い言葉を言い続けました。
「はなせ、汚ねえな。出て行けって何度も言われたから出て行くんだよ!
死ねよ、死んでくれよ、
産んでやったとか、育ててやったとか思ってんじゃねえよ。
触るな、汚ねえんだよ」
ありとあらゆるとがった言葉を吐き続ける一姫を見下ろしながら、せっかくシャワーを浴びたのに汗だらけだな、とどうでもいいことを考えていました。
そして、心のどこかで本当に死んでもいいなって少しだけ思いました。
でも、私が死んでも何にも解決しない。
それどころか、一姫の気持ちのぶつけどころがなくなり、自分のために母親が死んだと死ぬまで思いつづけなければならず、二太郎は姉のせいで母がいなくなったと思わなければならない。
やっぱりだめだ。
死ぬことでなんか解決することはない。
警察官たちは呆れ顔で戻ってきたカニ男に
「なんとか、うまくやってくださいよ、」と言い残し、すぐに去っていきました。あっけなく。
そこあとは、カニ男とおきまりの
「学校やめてどうするのか」
の押し問答。
あまりにも一姫の発言は幼稚すぎるのですが、私は黙っていました。
最後に一言だけ、
一姫のやってることなんて、なんとも思ってないよ、あんなに嫌だって言ってる学校に毎日行って、遅くてもちゃんと家に帰ってくる、それだけでいいと思っているよ。
とだけいいました。返ってきた言葉は
「うるさい、黙れ」
1時になり、どうしてもつきあっている男の子と話がしたいので、アルバイトをしている居酒屋まで行きたい、と言い出しました。あまりに非常識だけど、車で送っていき、30分くらい話をするのを待って連れて帰りました。
カニ男は仕事で朝が早いので都内のホテルに戻っていきました。
タクシーのなかからLINE。
「俺にも悪いところが多々あったと思います」
今日も遅い予定でしたが、仕事が済んだら帰るとありました。
これから、どうしようかな。
とうすればいいのかな。