とうとう一姫がお金を黙って持ち出しました。
今年度、野球部の部費を預かり、台所の棚にしまってありました。入出金はこまめにつけて、面倒でもその都度全額数えていました。
先週、出金があったときどうも1000円足りない、と思ったのです。そのときももしかして、とは思いましたが、とりあえずは自分で補填して、お金を入れた袋に「野球部部費  さわるな」と大きく書いておきました。それでやめてくれればいいな、と。
しかし、今回の額なんと90000円。
涙がでます。
もちろん、問いただしても とってない の一点張り。
この数日またお金があるはずないのに山ほど洋服を買っていたわけです。
情けないけれど、もう怒る気力はありません。

そんななか、なぜか、ふと思い出したのです。
私は不貞を働いたわけでもないし、借金を作ったわけでもない。ゴミ屋敷でもなければネグレクトでもない。
なぜこんな冷たい仕打ちを受けるのか。

ああ、私、この数年ずっと大学のとき大好きだった男の子のことを考えていたなあ
と。
大学時代の希望どおり、マスコミで大成功した彼のツィッターやFacebookを毎日チェックして、心のなかで   おはよう  おやすみ    とつぶやき、時には月をみながら涙したり。
これって恐ろしい裏切りなのではないでしょうか。
そこいらの男と不倫をするよりもずっとタチが悪い裏切り。
四半世紀も会っても話してもいない男を四六時中思い、しれっとした顔をして夫の給料で暮らし、ごはんなんか作ってみたりして、アイロンなんかかけてみたりして。

もしかしたら、一姫は誰よりも早くその裏切りに気づいていたのかもしれません。大好きなお父さんを最も残酷なやり方で裏切り続ける母が許せなかったのかも。


カニ男がちょいちょいつまみ食いをしてきたのは事実だけれど、それほど気にもしていなかったのです。一度だけ私の誕生日に浮気相手とメールのやりとりをしているのを偶然知ることになり、もう少し気を遣って欲しい、と頼んだことがありました。そのときも、携帯電話をチェックしようと思ったわけではなかったのですが、その後はどんなことがあっても触らないようにしてきました。知りたくないから。

でも、私の方がよほどひどい裏切り方だったのかも。40すぎの純愛プラトニックなんて。ちょっと気持ち悪い。
一姫が荒れ出してからは確かに彼のことを思い出すことはなくなりました。
こんな形で一姫は母の裏切りを止めてくれたのでしょうか??


一姫の部屋のゴミ箱から使用済みのコンドーム。避妊してるだけいいのか、と思ってしまったり。

ああ、これからどうすればいいのかな。でも、私の人生とは関係ないのかな。
まずは家に置いてあるお金はすべて金庫に入れ、鍵を持って歩くことに。