その後、母が絡んだことで更にもめ、
私は
どうぞ出て行って

一姫は
ああ、出ていくよ

となり、もうひとりの親であるカニ男と一姫が話をつけることになりました。

時刻は深夜1時。

一姫の自分の要求はどうしても通そうという勢いの怒声は続き、すでにアルコールが入り疲れ果てていたカニ男は半分寝ながら仕方なく付き合っている様子でした。

なんのことはない、携帯電話ほしさに学校には行く、といういつもの落とし所。
最後に
「そんなに学校に行ってほしいんだ、へえええ」
という捨て台詞を残し、やっと電話を手に入れた一姫。

私としてはしばらく学校に行かなくても、本当に辞めてもいい、と思っていました。

一姫は、本気で学校を辞める気なんかさらさらないし、一姫と私では流れている時間の速さが違うのです。

家出していた数時間はたぶん、一姫には私の一晩以上の感覚。

人は年齢によって時間の経つ速さの感じ方が違うと言います。
私は現在45歳。1年の長さはこれまで生きてきた長さの45分の1。
一方、一姫は16歳。1年の長さはこれまで生きてきた長さの16分の1。

私の時間の速さの感じ方は一姫の約3倍。
今回の家出を4時間とすると、一姫は半日家出して考えた、と思えばいいわけです。

なんでこんなに短時間でいうことがころころ変わるのかな、と思っていましたが、一姫の生きてきた長さとの割合を考えるとそれなりにじっくり考えた結果、となるのかもしれないな、と思いました。

だから、高校生活もあともう半分過ぎたじゃないか、あとはたった1年半なのに。と大人は感じても、一姫にとっては✖️3となるので、4年半。そうか、そら長いわな。

思い起こせば、そうでした。
大学生のころ、彼氏とひと月会えないのは大事件。

この時間の速さの感じ方はもう戻ることは永遠にありません。だれにとっても。
いまの私の3分の1で流れる時間を一姫は堪能するべきで、私自身も私の持つ今の決して戻ることのできない速さを堪能するべき。
それは実は楽しい時間ばかりがゆっくり流れるわけではもちろんないのですが。