出産予定日まであと1ヶ月を切った。


 9月1日に産休に入ってからもう3週間以上も過ぎていてびっくりした。


 8月末のことを思い出してみる。

 

 産休に入る2日前、正面の席の井上さんがミニストップのマンゴーフラッペをご馳走してくれた。

 産休前最後の出勤日は、三輪さんが育児用品をどっさり持ってきてくれて、遠藤さんが湘南のashiのチーズスティックをくれて、溝渕さんが紅茶のセットをくれて、総括主任がご自宅の近くの洋菓子屋さんのクッキーをくれた。新採用の唐渡さんは、なぜか数日前からデスクで温めていたマドレーヌをくれた。


 4年近くお世話になった職場だから、挨拶するべき人はけっこう沢山いた。昼休みからお菓子配りを開始して、なんとか午後のうちに挨拶を済ませることができた。


 4時に退勤する時は、部屋の皆さんが立ち上がって見送ってくれた。「これが寿退社か」と思った。次の5月には復帰する予定だけど。


 関内駅に向かう途中の脳内ではチャイコフスキー5番の4楽章のドラえもんみたいな部分が流れていた。自分の中ではウイニングランみたいなイメージのメロディー。沢山の人に優しくしてもらえると単純に嬉しいから。


 帰ったら、けい君がケーキを用意して待っていてくれて、「今までお疲れ様」と言ってくれた。


 何だろう。同僚にも夫にも優しくされすぎじゃないのか。私は今日死ぬのか。これ以上調子に乗ってはいけない。ちやほやされているのは私ではなく、私の中に入っている息子なのだ。私はただの容れ物であり、妊娠9ヶ月まで無事に生き延びている息子に対して社会が祝福しているのだ。そう思うことにした。


 だから、息子がやってくる予定の10月末まで、とりあえず私も容れ物ライフを過ごしてみようと思った。