ごく浅い眠りの中で、遠いどこかから響く鳥の鳴き声を聞いた。
エコーがかかっているような、こだまのような無数の鳥の鳴き声が確かに私の耳に届いている。
この鳴き声は主はカラスか。
そういえば昨夜、二宮さんから牛島のカラスの話を教えてもらった。
たくさんのカラスが牛島を寝床にしていて、日の出と共に光市の本州の方へ向かって飛んで行くらしい。
牛島から光市の室積へは約8キロ。
そこから更にいろんな場所へ飛び回る。
餌を探したり、遊んだり、探検したり、時期が来たら恋もするのだろう。
そして日暮れ時には、再び牛島に戻ってくるらしい。
それにしてもこの鳴き声、尋常な数ではないはずだ。
目をゆっくり開けて壁に掛けられた時計を見ると、もう6時前だった。
鳴き声を聞き始めて、随分時間が経ったような気がする。
怖いもの見たさで、気怠い身体に鞭を打ち、その様子が一望できる調理室の窓へ移動した。
「 わぁ・・・」
空に黒い鳥がたくさん。
重い窓をぎこちなく開け、朝焼けの空を背景に繰り広げられる壮大なショーに目を奪われた。
私の頭上から延々と無数のカラスが、前方の陸に向かって飛んでいる。
この様子を見ていると、なんだかサーっと私の中の “ 憑き物 ” が抜けて、飛んでいくような不思議な気持ちになった。
今度はその空っぽになりかけた中に、わけのわからない暖かいものが溢れてくるのを感じた。
なんだろう。
害鳥と呼ぶ人もいるが、ここのカラスの出勤ぶりを目の当たりにすると親近感が湧いた。
その様はまるでラッシュアワーのようだ。
そして強い生命力に満ち溢れた彼らを見ていると、自分は本当に小さな存在なんだと思い知り、身震いをした。
しばらく見ていると、私は彼らのパワーを少し分けて貰ったような気持ちになった。
暖かいものというのは、元気とか勇気とか変な自信とか、今回の遭難で失いかけたものかもしれない。
今度彼らを見かけたら、以前とは違った眼差しで見ると思う。
不謹慎だと叱られるかもしれないが、私はカラスに直接害を受けたことが無いので許して欲しい。
中央に見える灯台が、私を応援してくれている道標のように見えた。
燃えるような朝焼けの橙々色と赤色、そしてこの灯台の赤色に高揚感が高まる。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20160101/22/ririmu777/d0/68/j/o0800045013529111226.jpg?caw=800)
普通なら睡眠不足というと眠くて仕方が無いような気もするが、目が冴えている。
カラスたちのおかげで、すっかり覚醒してしまった。
覗いていた窓の右下には牛島港がある。
私も始発の船便で、カラスたちに追いつく。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20160101/22/ririmu777/44/70/j/o0800045013529111299.jpg?caw=800)
そしてカラスたちのように、国道188号線のラッシュアワーに巻き込まれるのだ。
※ 画像は後日、
夕暮れ前の牛島で撮影したものです。