いつも彼はハンターという仕事で忙しい。

それを分かっていて付き合っているのだけど

いつ帰ってくるかもわからない毎日は正直寂しい。


彼は帰ってきてすぐ私を抱き締める。

帰りが遅くなったとか寄り道してたとか試合が

なかなか終わらなかったとか理由はいっぱいある。


その中でも1番驚いたのは、血塗れで帰ってきた日。

彼に聞いても何も言ってくれなくてそのまま

シャワーを浴びに行った日。

その血はまだ黒くなっていなくてきっと

誰かを殺してきたばかりだったんだろう。


……ねぇ、ジャック」

「どうしたんです?」

「その血、どうしたの……?」

少し試合で手こずってしまいましてねぇ

………そっか。ちゃんと洗って落としてね?」

「ええぇ。」


本当の理由は聞き出せなかった。

彼は彼であって彼じゃない。

彼が言うには"悪い子の私だ"と言う。

本当にそれが本当なのだろうか。


──────かれは、かれであってかれじゃない。


じゃあ一体何者なんだろう。

そんな事を彼と付き合ってから考える。


考えれば考えるほど答えは出なくて

思考を巡らせている間に彼が来たことに気づかなかった。


「何を考えておいでなんです?」

「ひっ……!」

「そんな怯えずとも私ですよ、わたし」

ご、ごめん考え事に夢中だったみたい

「その考え事は、誰かにご関係がおありで?」

「えっとその、あるのかな私にとってはとても大事な存在で今傍から消えられたら死んでしまうようなそんな存在の

「それって私の事でしょうか?」

………、えっあ、違うの!今のは!」

「へァァ普段からそんな風に私を想っていたんですねぇ?」

「違うったらっ!ちょっと口走ったの!」

「そうですかそうですか、私は幸せ者ですねぇ」


そう言いながらニヤニヤと笑う彼の口元は

シャワーから出てきてマスクをしていなかった。

そして歪な形をしていて周りが見たらきっと嫌悪する。

それでも彼を愛しているし私の愛しい恋人だ。


で、何を考えておいでだったんです?」

……なんでもないよ」

「私に隠し事するんですか?」

「か、隠し事っていうか素朴な疑問っていうか

「ヘアァ?どういう事です?理解しかねますね

前にジャックが言ってたでしょ、"いい子の私と悪い子の私がいる"って」

そんな事も話しましたかねぇ………、」

「それで、私といる時ジャックはどっちのジャックで

どちらが本当のジャックなのかなって……

「なんだ、そんなことですか。」

「そんなことって……、」

"いい子の私""悪い子の私"も貴女を愛してるんですよ。

そして、本当の私はいやしない。」

「どういう事……?」

""""という事ですよ、ンフフ。」

?余計にわかんないんだけど……

「簡潔に言うと"貴女を愛しているのはジャック"それだけです。」

「でもジャックは貴方ではないんじゃ

「ジャックでありジャックじゃないんですよ。」

……??」


話がこんがらがる

言いたい意味が伝わってこない。

確かに彼は、切り裂きジャックでも

あって、リッパーとも呼ばれている。


彼に"本当"を求める方が間違えている

本当を知った所で私になにができる?


本当の彼を知って私は受け入れられるのか。

そんなこと考えていれば彼はハンターの仕事に呼ばれた。


「おや……、呼ばれてしまった綺麗にしたばかりだと言うのに

「行ってらっしゃい、リッパー。」

……えぇ。行ってまいりますねぇ嗚呼、帰りは少し遅くなりますから先に眠ってて下さいね?」

……………うん。わかった、」


そう言って彼は私にキスをして正装をし

マスクを付けて試合に向かう。

そしてバタンと虚しく扉が閉まって、目を伏せる。



彼はハンターだ。

逃亡者を捕まえ荘園に帰すのが仕事で

その逃亡者はいつ逃げるかもわからない。


だから夜中であろうと眠っていようと呼ばれる。

わかっているはずなのに、


………わかっているはずなのに、心は寂しい。虚しい。

傍にいてなんて我が儘言えなくていつも見送る。


見送った後は薔薇の香りだけが私を包んで

余計に心を寂しくさせる。




─────彼がいないこの時間は

                   ほんの少しだけ、さみしい。



薔薇の香りだけが残る部屋で1人で泣いても

帰ってこない。

いつも、そうだった。きっと、今回も

そう思って泣いてしまった時…────


やはりいつも1人で泣いていたんですね?」


声がして顔を上げるといつもの彼がそこにいる。

涙で滲んで視界はわからないけど確かに彼だとわかる。


彼はいつも薔薇の香りがするから、でもこれは

夢なんだろう、私は夢でも泣いているんだろう。


嗚呼、夢ではありませんよ。……全く。」


心を見透かされたような気がして嬉しくて

余計に涙を流してしまった私を彼は

優しく抱きしめてくれる。


「ほんの少しだけ寂しい……

「早く言ってくだされば、傍にいたのに


それだけ呟いて彼へ抱きついて泣きじゃくった。

その間彼はただ泣きじゃくる私を抱きしめて

大丈夫ですよ、と優しい声で傍にいてくれた。





ほんの少しだけ寂しい夜は

彼の香りや声で埋め尽くされてしまった。