すっかり夕方になってしまった道を結と漣は歩いていた。あの後、デパートは一時間の時間で元に戻り通常運転を始めた。それをしたのはこの経済特別区の王であるルミナスだ。
数時間後には人々は何事もなかったかのようにショッピングを楽しんでいた。
結と漣を例外ではない。あの後漣の選んだ服を結は着ている。淡いピンク色のしたワンピースにジーパン生地の上着を腰のあたりでリボンのように纏めている感じだ。結は滅多にこのような格好はしないのでかなり新鮮だった。感動したのも確かだ。自分にこんな性格があったのにも驚いた。楽しんでいたのだ、何気に。
「結、今日は楽しかった?」
漣は結に尋ねてきた。結は微笑みながらコクッと頷く。漣も笑って安心したような笑みを返す。
今向かっているのは漣が小さい頃によく遊びに行っていたところらしい。そこに何十年かぶりに向かっているのだ。結に見せたいものもあるらしい。だから、漣の背中を結はしっかりと追いかけた。
だんだんと上り坂がきつくなりそれがてっぺんまでくると丘を登っていたことに気づく。しっかりと柵も付いていて公園の踊り場のようなところだった。結は柵の方に近づいて景色を見渡す。
「きれい…」
そうすごく綺麗だった。夜に近づいている今の時刻は太陽の夕日の色がだんだんと消えていき、そこから光り出すネオンの光。経済特別区全体が輝いているかのようだ。海は最後まで太陽を見せている。
なんとも幻想的な光景だった。結はその様子を太陽が沈むまでずっと見続けていた。
「綺麗だろ。ここが俺のお気に入りの場所。気に入った?」
漣の声は自慢げだったが、優しく包み込むような声のトーンだった。結を見つめる目も自然と優しくなる。
「うん、もちろん」
結は懐かしいと感じた。なぜだかはよくわからない。結には10歳以下の記憶が曖昧に残っているだけで、はっきりとしたものがないのだが、確かに似たような景色を見た気がする。誰か…そう次男の方の兄、慎羅兄さんと一緒に。昔、結が住んでいたあのマンションの屋上から見た景色とこの丘の上から見た景色気が酷似していたからだ。自分の故郷を思い出す。
「なら、良かった」
「えっ………」
漣はいつの間にか結の後ろに回り、結の髪を結んでいた紐を解いた。漣は結に動かないでと一言だけ言って結の髪で弄ぶ。結は少し不思議に思いつつも後ろを振り返らずぼーっと景色を見ていた。
漣が離れたのがわかると結は自分の髪を触ってみる。いつもとは違う感触が手に触れた。
「?…なにこれ?」
「リボンだよ。うん、やっぱり似合う」
そう言って肩をポンっと叩かれた。そのついでとばかりに結の髪をさらっと撫でる。漣の手が離れると結も自分の髪とリボンを自分の目の見える位置も持ってきてみる。大人っぽさを出す黒いリボンだ。自分の髪をよく映えるなと思った。
「これ、ヘアピンのお礼。ほら、3年前の貸し今返したからね。それと、こっちに帰ってきてくれたってことの記念っていう感じかな」
漣の言葉に結は驚いた。そして頰を少し赤く染める。結の心の中は恥ずかしいやら嬉しいやらでいっぱいだ。それに足して、漣は結の頰を撫でてきた。
「ありがとう…」
嬉し涙を我慢しているのだろうか。目に膜が張っているように見えた。が、笑っている口元を見ているとこちらも微笑んでしまう。
「ねぇ、漣。私決めたことがあるの」
「なんだい?」
漣の目を見て結ははっきりと宣言していた。
「私MRIとして働くよ。そして、また漣と一緒に戦う。私みたいな人を増やさないために。だから、漣こんな私に協力してくれる?」
なにを今更と思った。結はこういうのが鈍い。今更放棄して結を放り出すわけないのに…。
「当たり前だろ。俺は待っているよ。結が来るまでずっと…」
「うん、ありがとう」
結はニコリと微笑んだ。漣もつられて不恰好な笑みを浮かべる。その後、漣の手が結に伸びてきて結の背中に回される。結は漣に寄っ掛かるようにして抱きとめられた。
「………」
温かいぬくもりに包まれて結は肩の力を抜いた。いきなりだったので、びっくりして肩に力が入っていたのだろう。
漣は結を自分の顔の方に向かせる。結との視線がかち合う。
いきなり漣の顔が近づいてくる。それが一度距離がゼロになるまで近づいて離れた。
「えっ………」
結は最初驚いてこれ以降の言葉を発することができなかった。漣は結が戸惑っている様子に苦笑した。
「約束のキスだよ。結がちゃんと約束守るためにね」
「……あぁ、ってそんなことしなくたってわかるよ。覚えてるよ、絶対に」
結も落ち着いてきたようでクスクスと笑った。けど、また結の目に膜が張っていたのを漣が見逃すわけがない。結は誰かの優しさに触れることに慣れていないようだ。
こんなちょっとのことで嬉しくて泣いてくれるんだからこっちもすごく嬉しいのだ。それが、たとえ涙に変わっても、それは幸せの涙なのだから綺麗だろう。
夕日は一瞬にしてなくなり、一番星が輝き始めていた。
結は明日への希望をその一番星に願った。
