黒い絵の具が乾かないうちに白い絵の具を塗ったような、そんな色の空をしていた。
私にはまだ夜の、4時半。
空は少しずつ明るくなりたいと、そう願っているかのようだ。

 

明日は台風で荒れるらしい。
明るくなるのはまたもう一晩越してからだろう。

昨日と比べると急激に冷えた今日。
寝巻にしているスウェット生地のワンピースは、気温にしては丈が短すぎるようだ。
露出している膝から下が冷たい。


咥えたたばこの先にライターの火を向けて、少し息を吸い込む。

まだ煙草を吸い慣れないから、手順を頭の中で箇条書きにしている。1,2,3…
チリチリとした赤い静かな火を確かめながら吸い込んだ息を吐くと、白の強い灰色の煙が口から出る。

あれだけ嫌いだったタバコを吸っている。

 

これを吸い終わったら、トイレに行ってから寝よう。
昨日ここで聞いた隣人の泣き声を思い出しながら、さっき泣いていた自分を重ねてみる。
みんな辛いことがあれば、目から水と一緒に出すんだろう。
隣の部屋はたしかカップルで住んでいるはずだ。
恐らく浴室で泣いているであろう彼女は、それはそれは子供のように「あー!うあー!」と大きな声で泣いていた。

私が泣いたのは久しぶりだ。彼女も久しぶりに泣いたのだろうか。
明日、目が腫れなければいいのだけれど。

 

彼にあったら、今日のように泣くのだろうか。
胸が何かに鷲掴みにされているような、この苦しさを表現できるんだろうか。
「会いたかった」と言って涙を流したら
「泣き虫ちゃん」と言って、少し困った顔をしながら頭をなでてくれるんだろうか。
もし。
もし「ずっと一緒にいたい」といったなら
彼は、どんな顔をして、どんな言葉をかえすのだろう。
ただ「ごめん」と言われたら、
私はどうするのだろう…。