「善と悪」〜第二章〜

 

「切り裂きジャックとは、1888年8月31日から11月9日の約二ヶ月間にロンドンのイーストエンド・オブ・ロンドン、ホワイトチャペルで少なくとも五人をバラバラに切り裂き、殺人を実行したが逮捕には至らなかった事件の犯人のことである。」

 

関根は自分が調べ上げ、要約した文章を読み上げる。湯田の顔はまだ青白かった。

 

「なあ湯田、今回の事件と、この「切り裂きジャック」が起こした事件、似過ぎてないか?」

 

「あ、ああ、そうだな。確かに似過ぎだ。」

湯田はギクシャクしながら答える。

 

「だよな。俺はな、これは切り裂きジャックの子孫が起こした犯罪だと思ってるんだ。」

関根がそう言った瞬間、湯田はビクッと体を震わせ、言う。

 

「お前何が言いたいんだ、さっきからそんな話ばっかりしやがって!」

湯田はそう言い、その重い腰を上げ、関根のもとを離れる。

他の生徒たちが迷惑そうに睨んできたが、湯田は睨み返す。

 

「おいおい、どうしちゃったんだよ、おい湯田!」

関根は湯田を追う事を試みたが、途中でやめる。

その方が都合が良い、関根はそう思い、大学院のベンチに腰を下ろす。

 

「あいつにはそろそろ天罰が下る」

関根は小さく呟き、微笑む。

 

 

 

「新田、どうした、そんな深刻そうな顔して。お前らしくないぞ」

佐々木は新田の顔を覗き込む。

 

「いや、あの湯田が怒ることは滅多にないからな。心配してるだけだ。」

 

「ああ、あの様子だと喧嘩だな。俺の目に狂いはないぞぉ」

そうだな、と言い新田は自分のパソコンに目をやる。

 

「『善』と『悪』について自分の考えを綴りなさい。」

新田はため息をつきながら、なかなか面白いレポートが書けそうだ、と思う。

 

「佐々木、『善』と『悪』についてどう思う?」

新田はテーブル越しに佐々木に聞く。

 

「お、お前もそのトピックか。そうだな…俺なら、犯罪を犯さない事が『善』、犯す事が『悪』って書くな。」

 

「ほお」

 

「だってそうだろ、世間的に見ても犯罪を犯したらその人は悪人だ」

新田は小さく頷き、言う。

 

「そうだな、確かに犯罪を犯す事が『悪』と世間的には考えられるかもしれない。でも、それ一つだけで決める事は不可能じゃないか?」

 

「どう言う事だ」

 

「誰かの為に犯した、と言うことであれば、『悪』とは決めつけられない。そうだろ?」

佐々木は少し間を置き、まあそうだな、と呟く。

 

 

 

 

 

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