最小限で生きるための思考

私は労働に価値を見出していない。

それは怠惰からではなく、合理性の問題だ。

生きるために必要な行動は、突き詰めれば食事と睡眠である。

安全が確保され、最低限の栄養と休息があれば、人は死なない。

それ以上の行動は、生存の必須条件ではない。

にもかかわらず、現代社会では「働くこと」が強く要請される。

働くことは美徳とされ、働かない者は問題視される。

この価値観は、あまりにも自明のものとして扱われているが、

よく考えれば不思議な前提だ。

国や金、労働といった社会システムは、人類が後から作った人工物である。

自然法則でもなければ、普遍的真理でもない。

それらは大人数で衝突せずに暮らすための、

いわば便宜的な装置にすぎない。

私はそれを否定したいわけではない。

むしろ、いかにうまく利用するかを考えている。

社会保障や公共制度は、最初から「使われる前提」で設計されている。

そこに道徳的な罪悪感を持つ必要はない。

道具は使うためにある。

一方で、労働そのものに価値があるという考え方には、どうしても違和感が残る。

労働の対価は金であり、

金があれば幸せになれる、という思想が暗黙の前提になっている。

しかしこれは、よく見ると宗教的だ。

金は安心や自由を保証すると信じられ、

労働は救済への道であるかのように語られる。

働けば報われる、努力は無駄にならない、

そうした言葉は事実というより信仰に近い。

この信仰は、社会を円滑に回すためには非常に都合がいい。

多くの人が疑問を持たずに働くことで、税もインフラも維持される。

だからこそ、労働は神聖化される。

だが、私はその信仰を共有していない。

それだけのことだ。

「意味」を考えたこともない。

生きがいを探して苦しんでいるわけでもない。

ただ、なぜそれを信じる前提なのかが分からない。

多くの人にとって、社会は内側から体験されるものだ。

私は少し外側から眺めている。

その距離感が、「変わっている」と見えるのだろう。

だが、変わっていることと、おかしいことは違う。

歴史を見れば、社会の仕組みを疑い、距離を取る人間は常に存在してきた。

彼らは少数で、目立たず、しかし消えなかった。

私が目指しているのは、社会からの完全な離脱ではない。

それはコストが高すぎる。

そうではなく、必要最低限だけ関わり、

信じず、崇めず、消耗しないことだ。

金は生存券としてあればいい。

労働は最小限でいい。

競争や上昇志向には参加しない。

その代わり、時間は自分で扱う。

社会が与えてくれる構造を盲目的に受け入れるのではなく、

自分で簡単な枠組みを作って生きる。

これは理想論ではない。

効率と快適さを最大化するための、現実的な態度だ。

社会は信じるものではなく、使うものだ。

その距離感を保てるかどうか。

私にとって重要なのは、それだけである。