桜を見たから春を過ごした気にはなってたけど豪雨のせいで賑やかじゃなくなった桜並木と夜風の冷たさは季節の感覚を失ってしまうな。冬は好きだけど準備のできていない身体に染みる寒さはつらい。涙で濡れたズボンのふとももあたりが冷たい風に当たってスースーする。今日は駄目な日だった。
泣かないと駄目な日だった。
あふれそうになったものを堰き止めるのが難しくなって随分経った。泣けなくなったのは大人になった証拠だと。大人になりたがる自分に言い聞かせることで泣かずに済んでいたころがなつかしくなるくらい、こみ上げる感情の行き場やそれを押し込める方法をすっかり忘れてしまった自分に気づく。弱くなった。
泣けなくなることが大人になった証拠なら、わたしは今どこまでも子どもに逆戻りしている。
大人は泣かないのよ、と教えてくれた大人は。泣きたくなることはないのだろうか。大人だから泣くのはみっともないと思ってるから泣けないのだろうか。そもそも悲しくて悔しくて泣きたいと思うことがもうないのだろうか。泣いてる暇なんてないからそんな感性にいちいち振り回されたりなどしないのだろうか。
それは心の底から羨ましくもあり、そんなふうにはなりたくないなとも思う。
ほんとは泣きたくなんかないなんて、分かり易いうそだ。
ほんとは泣きたかった。
弱虫で泣き虫なわたしはいつだって涙を見せられる場所を探している。この人じゃないあの人でもない誰でもいいわけじゃない。そのくせひとりで泣くのは寂しいからと誰かを頼ろうとする。侮辱される。まちがえた、この人じゃなかった。
ここ何日かの気持ちの不安定さがいつにも増して凄いからか。自分の心に余裕がなさ過ぎて、自分の心に余裕がないということにも気づけずにいる。少し突かれたら崩れてしまう。こぼれてしまう。ぜんぶ自業自得だって分かってるから余計に行き場がない。
ごめんなさい。
すみません。
そう繰り返した言葉に小さく苦笑いして、自分は大人だから大丈夫とあの人は言った。
いいんだよと。




