「私は一度死んだんです。」
 

そんなことを急に云われた。
 

は?とぽかんと立ち尽くすしか出来ない私に彼女は続けてこう云った。
 

「云い方が悪かったですね、私は数年前に生まれたんです。なので数年前からの記憶しかありません。」
 

「いえ、薄っすらとですが、それより前の記憶もあります。」
 

「そしてその記憶が此処の場所、此処までの道筋を教えてくれました。」
 

ますます何を云っているかわからなくなってしまった。
 

「ごめんなさい。急にこんなこと云われても混乱するだけですよね...」
 

「聞いてくださいますか...?」
 

 

 

 

 

 

  私の昔話を
 

 

 

 

 

 数年前からの記憶しかないのは当時“私”という人格が生まれたからだということ。
 

生まれたての私は右も左も判らない意味の分からない言葉を発するだけの赤ん坊だったこと。
 

友達も親も、自分の名前さえ判らなかったこと━━
 

 

 

「この身体はきっと、貴方の知っている柚さんの身体なのでしょう。」
 

 

私は固まっている事しか出来なかった。