ロフストでの歩行が安定してきた頃、作業療法での木工作業では鋸で木材を切る工程に差し掛かっていました。

ギラン・バレーになってから初めての鋸です。
厚さ2㎝、幅30㎝程の板を切断することがその日の課題でした。
痺れがあることを除いて上肢機能はほぼ回復しているつもりだった私は楽勝だと思っていました。



いざ作業を開始してみると、鋸の刃はなかなか進みません。力のコントロールが出来ていないのか何度引いても僅かに切れるだけ。
結局10㎝ほど切った段階で右腕の疼痛と息切れにより、U.OTにバトンタッチし休憩しました。

働いていた時は30㎝なんて1分以内に余裕で切断していたので10㎝でギブアップという結果はショックでした。
病院での生活には問題のない上肢機能、しかし元の能力には程遠いと感じました。
U.PTにロフストでの歩行を見てもらい、歩行器は卒業し移動はロフストで歩くことになりました。

最初は見守りが必要でしたが、3日後には見守りも解除になり、病棟での歩行訓練が自由に出来るようになりました。


私の入院していたリハ病院は1フロアに2つの病棟があり、自主トレは病棟内1周の短距離コースと隣の病棟も周る少し長めのコースで可能でした。

病棟内を何周かする方法もありましたが、少しでも景色が変わる(といっても病棟の廊下なので変わり映えはしないのですが)方が好みなので長距離コースを歩くことにしました。


隣の病棟をロフストで初めて歩いた時、看護師さん数人が「歩いてる、すごい!」と声を掛けてくれました。

他の病棟の看護師さんとはYさん以外関わりが無かったのですが、エレベーター前やデイルームはナースステーションから見えるので車椅子で暴走する私は有名だった様です。
私がリハ病院に転院した時に同年代の女性が2人入院していましたがすぐ退院され、その後はおじいちゃんおばあちゃんばかりだった為に20代の私は目立っていたのだと思います。


予想外の人達に喜んでもらい、とても嬉しかったです。
私が入院していたリハビリ病院では、PTさんとOTさんがそれぞれ各病棟に5人×2チーム配置されていました。
主担当が休みの日は、同じチームのセラピストが代理でリハビリを行います。


最初に隣のベッドだったGさんの担当PTはS.PTでした。たくさんの疾患を抱えたGさんの身体は繊細でしたが、そんなGさんはS.PTのことをとても信頼していましたし、私も病室や廊下でのGさんとS.PTとのやり取りを見て良さそうな人だなぁと思っていました。

私とGさんは違うチームだったので、私のリハビリをS.PTが代理で受け持つことはありませんでした。

しかしGさんの退院後、私のチームのPTさんが退職されたことによる人事異動でS.PTが私のチームに入られました。


「S.PTのリハビリを受けられる 」と喜んでいましたが、なかなかS.PTに当たりませんでした。


そして、10月下旬にようやくS.PTのリハビリを受ける日がやってきました。




S.PTと認識はありましたが身体を診てもらうのは初めて。マンネリ化したリハビリを新鮮に感じることが出来ました。S.PTは私の身体を適確に捉えて下さり、すぐに私からの信頼を得たのでした。

これまで歩行訓練は平行棒かピックアップ歩行器で、松葉杖では不可能でした。
S.PTは、壁の手摺に両手で掴まり横歩きをするように指示しました。初めての横歩き、少しぎこちない感じはありましたが出来ました。
その様子を見たS.PTは「杖で歩いてみよう」と言いました。私が松葉杖を上手く使えないことを伝えるとS.PTはロフストランドクラッチを持ってきました。

少し不安ではありましたが、使ってみると松葉杖と違いゆっくりと歩くことが出来ました。それも歩行器では前のめりになってしまう姿勢も少しマシな気がしました。

手掌と前腕で支持が出来るロフストランドクラッチは私と相性が良い様でした。


ロフストランドクラッチで歩けたことがとっても嬉しくて、リハビリ室から病室まで杖歩行で帰りました。





病棟での歩行訓練を初めてから間も無く、腕の力で立ち上がった後、数秒間手を放して立位を保てるようになりました。

両足底をしっかりと床につけ膝ロック、必死にバランスをとり、1歩を踏み出すことも、片脚に重心を乗せることさえ出来なかったけれど、何の支えもなく自分の脚だけで立ち、顔を上げて見たのはいつもと同じ光景のはずなのに初めて見る世界の様でした。

U.PTは毎日、ストップウォッチで立位保持可能時間を測定しました。
目標時間を設定し、後何秒と声を掛けてもらうことで負けず嫌いの私は闘志を燃やしたのでした。

2012年10月中旬

歩行器での歩行が安定してくると、病室⇄トイレの移動が看護師さんの見守りを条件に歩行器の使用許可がおりました。

歩行器でトイレに行った時、問題なのは手を洗う時でした。
車椅子に座っていると両手を自由に動かすことが出来ますが、歩行器で立っていると片手ずつしか手を離すことが出来ません。
しっかりと手を洗う為には看護師さんに身体を支えてもらう=軽介助が必要で、車椅子では自立していたのに介助・見守りが必要になったことで、トイレに行く度に気をつかう状況に戻ってしまいました。

しかし歩行器でトイレに行くようになり、さらにリハビリ時間外にも病棟で看護師さんと歩行訓練が出来ることになったことは私の歩行能力に大きな影響を与えたように思います。

ただこの頃、使わないことにより萎縮していた筋肉はまだ戻っておらず、「歩く量は増えているけれど筋力は足りていない」とU.PTに言われました。