売って下さいませんか?

と言うチラシがしばしば入ると思います。
すみません、売る気はありません。
そして三ヶ月~半年に一度ほど、
かならず私の元に掛かってくる電話。
「すみません、うちの母が
長年お茶をやっていたので
茶道具が山ほどありまして・・・。
母も先日亡くなってしまったので
売り払ってしまいたいのですが
ちゃんとした取引をしてくれる
茶道具屋さんってご存じないですか?」
勿論知っていますとも、
正直な茶道具やぐらいは、何軒も。
ただ、問題があります。
「ちゃんとした取引」って何ですか?
茶の価値、道具の価値を
全く理解していないのに
ちゃんとした、も何も無いでしょう。
それに、そう言った道具は
御母堂が色々試行錯誤の末、
心を込めて探し出し、
大切にして来られた物。
そう言う道具の価値を
微塵も理解出来ていないのに、
業者に対しては
「ちゃんとした取引」を求めてくる。
はっきり言いますが、
ナメてもらっては困ります。
茶道具の数々には
持ち主の心がこもっているのに
その心にすら気付かず
「売り払ってしまいたい」
と言う時点で、見下げた根性です。
しかも、価値も解らないくせに
自分達は損をしたくないと
「ちゃんとした取引」を求めるだなんて
虫が良すぎます、いくら何でも。
うちもプライドがあるので
変な道具屋を紹介するような真似はしませんが、
それでも、道具屋を紹介してくれと言う前に
まずやるべき事があるでしょう。
それは、
みずから茶道具の価値を知る事。
故人の思い出を安々と売り払うのに
値段だけはちゃんとしてくれ、だなんて
浅ましいにも程があります。
それに、同じ茶道具屋を紹介しろと言うなら
まず、我々茶の価値を理解するものに
簡単で良いから鑑定を依頼するのが
筋道と言うものです。

個人の思いが詰まった収集道具を
自分が価値が解らないからといって
あっさり売り払ってしまう。
しかも、それは日本固有の文化であり
今の日本を形作った、
最も大切な文化的財産であるにも関わらず。
無神経すぎると思いませんか?
高く買って欲しいなら、
まず自らが最低限の価値を理解してから。
茶の道に、それなりに長く修道していれば
200年、300年物の道具の一つや二つは
必ず隠れています。
アンティーク玩具のような
近代物とは訳が違うんです。
人が命を掛けて守り通し、
明治維新時の廃仏毀釈や
各地の大震災や津波被害、そして
第二次世界大戦をも乗り越えて
今に受け継がれているのです。
オモチャや人形ごときの収集物と
一緒にして貰っては困ります。
茶道具には、持ち主の心が詰まっています。
由来があり、言い伝えがあり、
伝説があり、そして歴代の持ち主の魂がある。
それが茶道具と言うものです。
故人の心を大切にすることから
まず初めてみてはいかがでしょうか。
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お会いした時にでもお話します。