振り返りて想う。
空の青さ、広さ、樹木の緑の濃さを。
雲が流れていた。樹木の葉が揺れていた。陰が揺れていた。
振り返りて想う。
出会いし人の優しさ、囁き、そして微笑みを。
戻れぬ日々なれど、心の中に昨日は宿る。
必死に生きてきた時はあろう。
散歩気分で生きていた時もあろう。
慟哭の時もあれば歓喜の時もあったと思う。
そして、皆、生きて来た。
「一本道は一直線や、迷うことはありまへんな
二つの分かれ道やと惑いますわ。
三つの分かれ道だと足は止まりますで。
でもな。それも生き行く日々や。
最後は己の決断を信じて歩いて行けばええんや。
人の世、白黒はっきり分ける事って、そう多くはありまへん。
だったら、腹ァ決めて一歩踏み出せばそれで一件落着や。
楽しいなァ、生きるって」
老いし人が呟いた。
微笑んでいた。
なのに何故か、その目から涙が流れた。
人、生きる。
「ビックコミックオリジナル2013.3.5号334ページ
風の大地 坂田信弘作より抜粋